成瀬課長はヒミツにしたい
「そういえば、成瀬課長はどうして“とうたん”なんですか? 私てっきりお父さんって意味かと思っちゃいました」

 成瀬の、あははという笑い声が室内に響き、その声に振り返った乃菜が二人の顔を交互に見ている。

「それでお前、スーパーで逃走したってわけか」

 洗い物をしている成瀬の背中が、楽しそうに上下した。


「俺の名前が“柊馬(とうま)”だからな。成瀬柊馬(なるせとうま)! それで“とうたん”になったんだよ。真理子もここでは“柊馬”って呼んでいいからな」

 そう言いながら振り返った成瀬のほほ笑みに、真理子はまたしてもドキッと心臓が跳ね上がってしまった。



「もぉー。反則でしょ」

 真理子は洗濯物を干しながら、ぶつくさと独り言をつぶやいた。

 この高層マンションには、ベランダがない代わりに立派なサンルームが設置されている。

 燦燦(さんさん)と日が差し込む窓辺で、目を細めながら順にタオルをかけていった。
< 36 / 413 >

この作品をシェア

pagetop