成瀬課長はヒミツにしたい
 成瀬の秘密を知ってしまってからというもの、ここ数日で真理子の生活は一変した。

 会社もプライベートも、ちょっと強引な成瀬の策略にはまるかのように飲み込まれている。


 真理子はふと、成瀬のほほ笑んだ顔を思い出し、慌てて首を振った。

 そして自分が、この“とんでもない状況”に、心の底ではまんざらでもないと思っていることを感じていた。



「とうたん、はやくー」

 ショッピングモールまでの道を楽しそうに走る乃菜が、満面の笑みで振り返った。

「こら! 危ないから、そんなに走るな」

 成瀬は口元に手を当てて、大きな声で叫んでいる。


 乃菜は父親との二人暮らしの上、その父親もほとんど家にいないそうだ。

 それでも寂しい顔は見せず、素直で明るい女の子だ。


 ――成瀬課長が、側にいてくれるからかな?


 真理子が見上げると、成瀬は優しい顔で乃菜を見つめている。
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