成瀬課長はヒミツにしたい
「あら!」

 田中さんの弾むような声が聞こえ、真理子が振り返ると、こちらへゆっくりと向かってくる成瀬の顔が見えた。

「柊馬さん」

 真理子は小さく片手を上げると、そっと手招きをする。

 どうしたのだろう?

 成瀬の頬は、ほんの少し紅潮しているように見える。


 ――さっき飲んだ、ワインのせいかな?


 今まで見たことがない程、少し余裕のない成瀬の顔つきに、真理子は首を傾げながら足を前に出した。


「どうしたんですか……」

 声をかけようとした瞬間、成瀬の大きな腕が真理子をぎゅっと包みこむ。


「きゃっ♡」

 田中さんの黄色い悲鳴が、会場内に響き渡った。

 その声に、周りにいた社員たちも、何事かとこちらを振り返る。

 真理子は何が起こったのか頭がついていかず、成瀬の腕の中で呆然と立ち尽くしていた。


 しばらくして、成瀬は腕の力を緩めると、真理子の両腕を優しく支えるように持った。

 成瀬に触れられた所が、ものすごく熱い。

 真理子は、ホテルの照明に照らされて、いつもより艶っぽく見える成瀬の顔を見上げる。
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