成瀬課長はヒミツにしたい

戻った日常

「水木さん! 早く早く」

 秘書課の女性社員が、社長室の入り口から顔を覗かせる。

 真理子は手早く荷物をまとめると、社長室の戸締りを確認して部屋を出た。


 季節は夏本番を迎え、一歩外に出ると夜でもむっとした熱気に包まれる。

 みんなと話をしながら駅に向かう途中、近くの商店街のお祭りのポスターが目線の端に映った。

 サワイの電飾玩具が夜店に並ぶ時期になったかと思うと、自然と真理子の頬もほころんでくる。



 創業記念イベントの後に開かれた役員会議で、社長は今後のサワイライトの方針をみんなに伝えた。

「自社工場はイルミネーションライトの製造一本に絞り、電飾玩具は佐伯(さえき)製作所へ製造を委託します」

 会議の冒頭でそう伝えた社長に、誰もが賛同の拍手を送った。

 あのイベントで、サワイはまた社長の(もと)で一つになることができた。

 だからたとえ社長の決定が“電飾玩具事業からの撤退”だったとしても、もう誰も文句を言わなかったと思う。

 それでも最終的に社長がこの決断をし、全てが丸く収まる形になったことに、真理子はほっと胸をなでおろしていた。
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