成瀬課長はヒミツにしたい
「乃菜ちゃん、いい子ですね」

「まあな」

 真理子の言葉に、成瀬は満足そうにうなずく。

 すると駆け寄ってきた乃菜が、成瀬の手を引いていった。


 会社では一切笑わない“クール王子”。

 今、真理子の目の前で、ほほ笑みながら乃菜と手をつなぐ姿なんて、きっと誰も信じないだろう。


 ――いったい、どんな事情で家政婦になったんだろ……。


 真理子は、まるで親子のように接する不思議な関係の二人を、ぼんやりと見つめていた。


 その日は、目的の浴衣と大量の食材を買い込み、夜にマンションへと帰宅した。

 はしゃぎすぎた乃菜は、途中のレストランで済ませた夕飯でお腹がいっぱいになったからか、今は成瀬の背中で眠っている。

「乃菜ちゃんのパパって、休日もないほど忙しい人なんですか?」

「あぁ。今は海外に出張中だ」

「海外……」

 真理子は、気持ちよさそうに目を閉じる乃菜の顔を見上げた。


 ――こんなに小さい子がいて、シングルで。おまけに仕事も忙しかったら、大変だろうな。
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