成瀬課長はヒミツにしたい
「あの。ずっと気になってたんですけど……」

 真理子が遠慮がちに声を出すと、成瀬が首を傾げながら振り返った。

「成瀬課長は、どうして家政婦になったんですか?」

 真理子の言葉に、成瀬は一瞬戸惑った様な表情を浮かばせる。


「……成り行きだ」

 しばらくして成瀬は、取り繕うように小さく口を開いた。

「え? 成り行き?」

 真理子は声を上げると、そっと成瀬の顔を覗き込んだ。

「お前にパートナーを頼んでおいて、こんな言い方は不適切かも知れないが……昔の、くだらない約束なんだ」

 成瀬はそう言うと、顔を上げて遠い目で夜空を見上げる。


「昔の……約束……?」

 真理子は意味深なその言葉に、心の奥が少しだけキュッと苦しくなった。


『それは、誰との約束ですか……?』


 真理子は、そう聞きたい気持ちをぐっとこらえる。

 聞いてしまったら、今の関係も終わってしまう気がしてならなかった。
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