成瀬課長はヒミツにしたい
~2~

「お、お、お、お、おはようございます……」

 社長室の扉を開けた途端、どもりすぎた蚊の鳴くような声が聞こえ、明彦はぎょっとして振り向く。

 扉のすぐ横にうつむきながら立っていたのは、リクルートスーツに身を包んだ小柄な女性。

 ショートカットの黒髪に、化粧っ気のない頬を、これでもかと思う程真っ赤に染めている。

 明彦は、昨日目を通した資料を思い出した。


「えっと。第二秘書になった、志賀夏美(しがなつみ)さん……だっけ?」

「は、は、はいっ……」

 若干裏返った声で答える夏美に、明彦は困ったように頭をかくと、そのままデスクに向かった。

 夏美は、極度の緊張からか棒のように固まったまま、その場で突っ立っている。

 どうしたものかと悩んでいると、勢いよく入口の扉が開いた。


「夏美ちゃん、ごめんごめん。ちょっと打ち合わせが長引いちゃって……」

 小宮山が汗をかきながら飛び込んできた。

 その途端、室内の微妙な空気に気がつき、顔をこわばらせる。

「社長?! もう出勤されてたんですね……」

 小宮山は額の汗を手で拭いながら、上目づかいで明彦の顔を見た。
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