成瀬課長はヒミツにしたい
 そして、そう思わせるほど、夜空を見上げる成瀬の瞳は憂いを含んでいた。


 ――もっと、成瀬課長の事を知りたい。


 真理子は、成瀬の横顔から目が離せなかった。



 ぐっすりと眠る乃菜を着替えさせ、ベッドにそっと寝かせる。

 真理子が部屋から出てくると、成瀬は食材を冷蔵庫にしまっている最中だった。

 その傍らにはビールの缶が置いてある。


「お前も飲むか? 今日は疲れただろ?」

 成瀬は缶を顔の横に掲げると、笑顔で真理子を振り返る。


 ――成瀬課長って、お酒飲むんだ……。


 真理子は驚いた顔をしながら、こくんと頷いた。


 ダイニングテーブルの椅子に腰かけ、ぼんやりと成瀬の背中を眺める。

 そういえば、成瀬が会社の飲み会に参加している姿を見かけたのは数回しかない。

 その時も、ノンアルコールビールだったのを思い出す。


「お酒、苦手なのかと思ってました」

 真理子はビールを一口、口に含みながら声を出した。

 シュワシュワとした炭酸と苦みが、一気に口の中に広がる。
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