成瀬課長はヒミツにしたい
 顔を真っ赤にした真理子の様子を見ても、成瀬は何も意識していないのか淡々と話を続ける。

「住み込みの家政婦だと、思えばいいじゃないか」

「で、でも……。そ、その……。まだ嫁入り前だし……」

 もじもじとしながら下を向く真理子の顎を、成瀬が余裕の表情でくっと持ち上げた。


「あのな……」

 またしても鼻先すれすれに、成瀬の吐息を感じる。

「俺がお前を、襲いに行くとでも思ってるのか?」

 成瀬はそう言うと、顎にかけた手をすべらせ、真理子の真っ赤な頬をむぎゅっと押さえつけた。


「なっ!」

 真理子の唇はタコのように飛び出て、成瀬はそれを見てぷっと吹き出す。

「お前、面白いな……。じゃ、おやすみー」

 成瀬は真理子からぱっと手を離すと、後ろ手に手を振りながら、さっさと自分の部屋に入って行った。


「ばっ……ばかにしてー!」

 真理子は、成瀬のほろ苦い吐息がかかった鼻先をぎゅっと掴む。

 そして残っていたビールを一気に飲み干すと、来客用の部屋の扉をバタンと閉じた。
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