成瀬課長はヒミツにしたい
「いや、なんでもない。まぁ、あれだな。仕事に集中しない真理子が悪い、ってことはわかった」

 成瀬は一人で納得したように、首を縦に振る。

「もう! 全っ然わかってなーい!!」


 真理子が両手を上げて叫んでいると、隣からくすくすと笑う声が聞こえてきた。

 見ると乃菜が、にこにこと満面の笑みを二人に向けている。

「とうたんも、まりこちゃんも、すごくたのしそう! のなもたのしい!」

 乃菜はそう言うと、真理子と成瀬の間に入って二人の手をぎゅっと握る。

 真理子は思わず成瀬と顔を見合わせた。

「乃菜ちゃん、あのね。これは喧嘩っていうか……なんていうか」

 照れた真理子が、しどろもどろになっていると、成瀬の肩がくくっと揺れるのが目線の端に映った。


「乃菜には、楽しそうに見えるんだな」

 成瀬は立ち上がると、乃菜の頭を優しく撫でる。

 そしてそのまま、真理子の頭にもぽんぽんと優しく触れた。


 真理子は成瀬の長い指の感触を感じながら、次第に熱くなる身体を隠すように、乃菜の手をぎゅっと握り返した。
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