成瀬課長はヒミツにしたい
 真理子は、初めて目撃したおどけた成瀬の姿に、一瞬ぽかんと口を開ける。

 そして次の瞬間、お腹を抱えて大笑いしていた。


「え? そんなに、変だったか?」

 成瀬は照れて頭をかいている。

「違います……。まさか“クール王子”が冗談を言うなんて……」

 真理子は、笑いすぎて指で涙をぬぐいながら答えた。

「あのな。俺は普段、どんだけ堅物のイメージなんだ……」

 腕を組んで渋い顔をする成瀬に、後ろからスケッチブックを持った乃菜が飛びついた。


「とうたん。みてみてー!」

「お、上手じゃないか」

 振り返った成瀬は、乃菜をひょいと軽く抱き上げると、くるりと回転する。

 きゃっきゃと声を上げている乃菜と成瀬の姿を見ながら、真理子の胸はどんどん高鳴っていた。


 ――家政婦のパートナーだけじゃない。成瀬課長の隣に立てる女性(ひと)になりたい……。


 真理子は両手を胸の前で、ぎゅっと強く握りしめた。
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