成瀬課長はヒミツにしたい
「乃菜ちゃんに仲良くしてもらってる、サキの母です。いつもお世話になってます」

 女性はほほ笑むと、丁寧に頭を下げた。

「こ、こちらこそ……」

 真理子は慌てて、女性に向かってぺこりとお辞儀をする。


「仲が良くって素敵ですね」

 女性は口元に手を当てて小さくそう言うと、にっこりと笑顔を見せて去って行った。


 ――私たちって、傍から見たら家族なのかな?


 女性の後ろ姿を見送りながら、ぼんやりとそんな事を考える。


 そして真理子は、ふと隣の成瀬を見上げた。

「成瀬課長……」

 そう呼びかけようとして、真理子は一旦言葉を飲み込んだ。


 ――もっと、この人に近づきたい。


 真理子は深呼吸をしてから、自分を励ますように小さくうなずいた。


「と……柊馬さん」

 勇気を出してそう呼んだ真理子の目の前で、成瀬の肩がビクッと動く。


「お、おう。なんだか、急に呼ばれると照れるな」

 頭をかく成瀬の頬は、提灯(ちょうちん)の明かりに照らされて、ほのかに赤く染まって見えた。
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