成瀬課長はヒミツにしたい
「真理子さん、ここ最近根詰めてたし、疲れてるんじゃないですか? ほら、目の下にクマが……」

 卓也が手を伸ばし、真理子の目元をそっと指で触れる。

「ちょ、ちょっと。卓也くん!」

 真理子は顔を赤くすると、慌てて卓也の手を払いのけた。


「確かに、ちょっと目眩がする時があるけど……」

 真理子は引き出しから鏡を取り出すと、自分の目元を確認して愕然とする。

「ほ、本当だ……クマになってる……」

 今の真理子は、本業の仕事と家政婦業のダブルワーク状態だ。

 自分でも気がつかない内に、疲労がたまっていたのかも知れない。


 ――こんな顔で、柊馬さんに接近されたら恥ずかしいな。帰ったらパックでもしてみよう。


 真理子が一人で悶々と考えていると、卓也が「あれ?」と声を出した。


「どうしたの?」

「いや。成瀬課長が、こっち見てたみたいなんですけど……」

「え?! 成瀬課長?!」

 真理子は慌ててフロアの奥を見回したが、成瀬の姿は見えなくなっていた。
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