成瀬課長はヒミツにしたい
 見ると成瀬がシャツの腕をまくり、慣れた手つきでトッピング用のトングを構えている。

「な、成瀬課長?!」

 真理子は思わず裏返った声を出した。


「仕方がありません。お手伝いします」

 成瀬は表情を変えずにそう言うと、クールな顔で前を向く。

 真理子は思わずぷっと吹き出しながら、カレーを盛りつけた皿を成瀬に手渡した。


「希望のトッピングは、成瀬課長に言ってくださいねー」

 真理子が並んでいる社員に声をかけると、どこからか「キャー」という悲鳴に似た声が聞こえてくる。


「ちょっと! 成瀬課長がトング持ってるんですけど!」

「私、トッピング入れてもらいたいでーす♡」


 瞬く間にカレーのゾーンは、さらに長蛇の列となっていた。


「成瀬課長のせいで、余計に忙しくなっちゃったじゃないですか」

 真理子は正面を向いたまま、口をとがらせて憎まれ口をたたく。

「そうですか? 水木さんが、しなくていい苦労するからです」

 “クール王子”はトングを持ったまま、静かにそう答える。
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