成瀬課長はヒミツにしたい

戸惑う心

 帰りの車の中、真理子は後部座席で眠る乃菜の顔を覗き込む。

 あんな事があった後だが、乃菜は気持ちよさそうに寝息を立てていた。


「まさか橋本が、あそこまで俺に恨みを持っていたとはな……」

 成瀬はハンドルを握る手にぐっと力を入れる。

「柊馬さんを恨むのは、お門違(かどちが)いですよ。私ですら知ってるほど、橋本部長のセクハラは有名でしたもん……」

 真理子も憤りを隠せずに、語気が強くなる。


「そういえば……専務が言ってたって、話してましたよね?」

 真理子は、はっとすると成瀬の顔を振り返った。

「あぁ……」

 成瀬はため息をつくようにそう言うと、窓に肘をかけながら、こめかみに手を当てる。

「この前の社長と専務の一件もそうですけど、私たちの知らないところで、会社はもめてるんでしょうか?」

 真理子は不安そうな声を出した。
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