私の新しいパーティーメンバーが勇者よりも強い件。
 

 街の中央にある広場。
 アレク様が魔法陣を展開すると、右側からトール様たちを追い掛けて来たリトルワイバーンが“掛かった”。


「自動電撃狙撃(オートヴォルトショット)」


 リトルワイバーンの眉間が地面に浮かんだ魔法陣から出た電撃により撃ち抜かれる。
 その威力は一点集中というやつだろうか。
 驚いたトール様たちが「わぁ」と声を上げる。

「なんだ今の⁉︎」
「僕の狙撃魔法だよー。僕は魔法で狙撃する戦闘スタイルって言ったじゃーん。トールマジバカー」
「うっ。き、聞いてたけど、目にするのは初めてだから驚いたんだ」

 …そういえばナドレの街に来る間、結局我々は戦闘に参加したりしなかったからな…。
 レベルの低い冒険者たちのレベルアップが最優先だったので。

「この魔法陣の中に入った魔物は自動排除ー。待ち伏せは狙撃手の基本戦法ー」
「あの、それだと私が戦闘を行えないような…?」
「美味しいお肉を確保するためでーす。ご協力お願いしまーす」
「……肉の為ですか…」

 頭を下げられると「じゃあ仕方ない」と思ってしまう。
 アレク様がそう言うなら…。

「オルガには他にお願いしたいことがあるからー、戦闘はしなくていいなー」
「彼女になにをさせる気だ?」
「?」

 ググッと近付いてきたトール様。
 いや、なんか距離が近いぞ。
 真横に並ばれると臭いが…。
 私はクリス様に脅され…いや、ご指示で毎日リリス様と体を拭くようにしていたけれど…ト、トール様は臭いが…。
 ススス、とつい離れてしまう。

「ええと、私はなにを…?」
「オルガは鑑定眼があるでしょー? まあ、僕らも持ってるけどー…。鑑定眼を使って街の中に無事な人がいないか探して来てー。家の中を中心にねー。あと、役場の場所ー。魔物がいても戦わなくていいからー、街の人の安全確認最優先でー」
「……! 分かりました」
「え、一人で行かせるつもり? 」
「もちろんクリスも一緒に行ってー。死んでなければ回復させてー」
「分かった〜」
「では、行ってまいります」
「あ……」

 トール様が何か言いたげだったが、ステンド襲撃から三週間近く経っている。
 それを思うと、街の人たちの無事が心配だ。
 一番近くの家に走り、扉をノックする。

「もし! 失礼! 私は戦士オルガ。どなたかいらっしゃらないだろうか! 怪我人がいるなら回復師を連れている!」
「…………オルガ」
「……」

 クリス様に促され、鑑定眼を使う。
 …鍵がかかっている。

「ダメです、私の鑑定眼レベルでは鍵がかかっているくらいしか…」
「ボクも鑑定眼レベルは上げてないから分かんないな〜。次の家に行こう…」
「そう、ですね」

 だが鍵がかかっていると言うことは、中に鍵を掛けた人間がいたということだ。
 家の中に人がいれば鑑定眼で何か反応があると思ったんだが…。
 今は人を探そう。


「次に行こう……」


 五軒目。
 六軒目…。
 七軒目……。

 道なりに家を回るが、反応はない。

「…人間が食べずに水だけで生きられるのは一週間…。やはり遅かったのかな…」
「クッ…」

 クリス様も難しい顔をされる。
 我々がナドレの街まで食糧を届けに来ていれば…。
 これではステンドよりも南西にある街は……。

「……でもこうなるとステンドのお城の食糧も不安だね〜…。この世界の城の規模が分からないけれど…籠城する事を想定していれば一ヶ月は保つはず〜…」
「城も限界が近いということですね…」
「アレクの予想だと、下の兵士たちはそろそろ食べ物が回らなくなっている可能性が出てくる時期だね〜。僕らの予想よりも多くの食糧がある事を祈るばかりかな〜…」
「…………」

 もしもアレク様の予想よりも少なかったなら…。
 いや、一国の城だ…きっと備えてはあるはず。
 まして魔王に乗っ取られた南西の大陸と最も近い場所にあるのだから。
 今は家を調べて住人を探そう。

「もし!」

 八軒目。
 九軒目…。
 十軒目……。
 そして十一軒目。

「!」

 鍵が開いている!

「誰かいませんか⁉︎」

 迷わず扉を開けて中に入る。
 一人の青年が倒れていた。
 クリス様が私を通り過ぎてヒールをかけるが…回復した様子はない。
 これは!

「息はある。…水を飲ませよう!」
「はい!」

 口に手を当てると辛うじて吐息を感じた。
 水壺を覗き込むが、なにも入っていない…⁉︎

「噴水(スプラッシュ)!」

 クリス様が水の魔法で水壺をたっぷり潤してくれる。
 …でもそれ攻撃魔法じゃ…。
 い、いや、今はそれどころではないな!
 コップを勝手に使わせていただき、水を掬って抱えた青年の口へと持っていく。
 頼む、飲んでくれ。

「飲め、水だ」
「う……」

 口元に運んだ水をゆっくり飲み始める青年。
 良かった……。

「うわ、食糧庫空っぽだ…。やっぱり魔物のせいで食糧の確保が出来なくなっていたんだね〜」
「確かに街の中をウロつかれては畑にも行けませんよね…」

 どの街も畑や小さな農場のある家がほとんどだ。
 しかし、そこへ行く道にあんな強力な魔物がいては一般人に対処しようがない。
 家に隠れて助けを待つことしか、彼らにはできないだろう。
 街の中の共有井戸に水を汲みに行くことすら難しくなって、蓄えていた食糧も底をつき、飢えと渇きで倒れていたのか。
 くっ、なんと酷い…。

「その点城には井戸が引いてあるはずだから水の心配はないはずだよね」
「そうですね…」
「水があるのとないのでは全然違う。…まあ、やっぱり食糧の有無は大きいけれど〜」
「は、はあ…」
「大丈夫か? 今スープを作る。もう少し水を飲んで耐えてくれ」
「あ、ありがとう…」

 私が失敗せず作れるレシピで、今作れるものは干し肉のスープだけだ。
 家の中の厨房を借りて、鍋を仕掛ける。
 クリス様が出してくれた水を使い、干し肉を入れて煮込む。
 暴走草(ぼうそうそう)を乾燥させ、粉末にした粉を入れると野菜の旨味が出る。
 そこへ塩胡椒を入れて…味を整える、と…。

「出来た!」

 料理スキルを覚えておいて助かった!
 すぐに皿によそって青年へと持って行く。
 スプーンで食べさせて、彼がゆっくり飲み込むのを見届けてから息を吐いた。

「うまい…」
「そうか、良かった。まだあるからゆっくり食べるんだ。…私たちは他の家も確認してくる。今、街の中の魔物を勇者たちが倒している。今少し辛抱してくれ」
「ゆ、勇者が…勇者が来てくれたのか…。…ありがとう…ありがとう…」

 ポロポロと涙を流し始めた青年にスプーンを持たせる。
 彼は少し咳き込みながらも、夢中で私なんかが作ったスープを飲み干した。
 お代わりを入れて手渡し、この家を出る。

「クリス様、確か思伝(テレパス)は一方的にでもこちらの意思を伝えられたのですよね?」
「うん? うん、なにか誰かに伝えたいことでもあるの?」
「街の外にいる冒険者たちの中で料理スキルのある者へ、食事を大量に作っておくように伝えてください」
「ああ、成る程ね。けど、飢餓で倒れている人間の胃にいきなり固形物を入れても胃はすぐには働けない。スープの方がいいよ」
「! そうなのですか…? では、スープを」
「うん、了解〜」

 今度の家からは扉…いや、鍵をぶち壊して中に入る。
 クリス様は一瞬驚いたようだが、緊急性が高いと判断したのだ。
 案の定、家の中には倒れた人々。
 年老いた夫婦、若い夫婦と子供たち、一人暮らしの高齢者…。
 皆辛うじて息をしていた。

「良かった、この人たちもまだ生きている」
「はい、お水!」
「ありがとうございます!」

 手分けして入った家、入った家の住人に水を飲ませて回る。
 スープを作って、半分ほどをクリス様の不思議空間に入れさせてもらい、食べさせた。
 意識が朦朧としている人が多く、水を飲ませるのも一苦労だが…。

「ホントギリギリセーフだったね〜…明日とかだったら、死んでそうな人いたし〜」
「良かった…」


 …………しかし…それでも、宿屋を見つけるとそこには何体かのご遺体があった。
 見たところ冒険者たちのようだったが、悪臭を放ち…苦悶の表情で亡くなっている。
 宿屋の主人はやはり飢餓で危うかった。
 それでも、一応一命は取り留めたようだ。

「宿屋のお客は全滅か〜…」
「あとで弔ってやりましょう…。きっとステンド防衛戦で戦った者達です」
「そうだね…」

 …全ての人を救うことは出来なかった。
 覚悟はしていたが、辛い。
 やはり一刻も早くステンドへ行かなければ………いや、行きたい。
 早く助けに行きたい…!
 今もこうして苦しんでいる人がいるのに…私はなんて無力なのだろう…。


「オルガ!」
「アーノルス様」

 宿屋を出るとアーノルス様ご一行と遭遇した。
 街の魔物は退治し終えたようだ。
 アレク様の指示で街の外にいた冒険者たちが入って来て、鍵がかかっていた家は扉の鍵を壊して住人を救出する。
 外で作っておいてくれたスープを手分けして飲ませて、介抱するように…と。
 アーノルス様たちもアレク様の思伝(テレパス)を聞いていたはずだが…。

「役場を見つけたんだ、アレク君を呼んでくれ」
「りょ〜か〜い。アレク〜」
「…とりあえず役場に一旦集まろう。街の様子を確認して整理する必要がある。出来れば街の者の話が聞きたいが…話せそうな住人はいたかい?」
「いえ、私が行った家には…」
「そうか…。ローグスはリガルと住人の救出を手伝ってやってくれ」
「分かったのだよ」
「了解!」
「やれやれ、今夜はゆっくり出来なさそうね〜。シャワー浴びたかったわ〜」
「激しく同意〜」
「もう…リリス様もクリス様も…」

 …確かに二日も野宿だった。
 美意識の高いお二人はそう言うだろうけれど…街の状況はそれどころではないと言うのに…。

「確かにそうだが、私はオルガの料理が楽しみだよ。最初にスープを作ったのはオルガなんだろう? 私も食べたいな」
「え? 私のですか? …私よりもアレク様のスープの方が美味しいと思うのですが…」
「君の作ったものが食べたい…」
「はあ…? 私なんかのもので宜しければ…」

 どうせまた作るつもりだったし…っと、いうか。

「クリス様、アーノルス様、リリス様、では私はスープ作りを手伝って参ります! きっとまだまだ必要になると思うのです! せっかく料理スキルを覚えたのですから、私も街の人たちのために出来る事をしなければ!」
「んもう、オルガ本当に真面目〜。…まあ、いいよ。確かに街の状況を見るにまだまだ足りなさそうだもんね〜。食材が足りなくなったら言って〜。ボアの肉だけは山のようにあるから〜」
「はい! では早速!」

 クリス様の空間保管庫からボアを二頭ほど取り出して、担いで走り出す。
 とりあえず街の中央広場で炊き出しの準備をしているはずだから、そこに持って行って捌いてもらおう。
 我々が今夜食べる分も作らないといけないから…………。




「ふふふ、真面目な子ね〜。真面目でとても良い子だわ」
「ああ…それに可憐だ…」
「は?」
「ハァ…?」
「……あ、い、いや、な、なんでもない!」





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