私の新しいパーティーメンバーが勇者よりも強い件。
「ええ⁉︎ これアレク君とオルガが作ったのかい⁉︎」
「はい! 料理スキルを会得しましたので!」
ドヤ!
…まあ、胸を張ったところで焼いたベーコンエッグ、そしてサラダだけなのだが…。
パンとスープはアレク様の手作り。
私はまだパンとスープまで習っていない。
しかし、とりあえず食べてもらい感想を聞く。
『料理レベル3』なので、人が食べても問題はないと思う。
「…アーノルス様たちに食べていただくにはまだ実力が足りないのは重々承知なのですが!」
「これも僕らの料理レベルを上げるためなのでご協力くださーい」
「へえ、美味しそうに出来てるじゃない。見た目は合格よ」
やった!
リリス様の言葉にアレク様ととりあえずハイタッチ。
「というか、なぜこのタイミングで料理スキルを会得したんだね?」
「今後の旅を考えて、習おうと思っていたのです」
「あと、料理は士気向上にも使えるんだよー。美味しいご飯はやる気が出るよねー」
「料理によるステータス向上効果の付加ね。確か、それが可能になるのは『料理レベル5』からだったと思うけど」
「へえー、そうなんだー?」
「ええ、料理によって付加される効果は違うのよ。それと『料理レベル』によって付加される効果の継続時間や効果の上昇率も変わるの。それと職業によって別な付加もあるわ。例えば魔女のワタシは料理を作っても『呪い』の効果ばっかりになったりね! うふふ!」
「…わ、わあ…」
リガル様が縮こまる。
そ、そうなのか…初めて知った…。
「敵に投げつけて呪って使うのよ…ふふふふふふ…」
「食べ物を粗末にするのは少し気がひけるねー…」
「は、はい…」
「冗談よ。ちゃんと罠として置いておくのよ」
……大差ありません…リリス様…。
「なんにしても頂こうではないか」
「そうだね、ありがたくいただくよ。いただきまーす」
「いただきます!」
「いただきまーす」
ぱくり。
アーノルス様たちの口に、私の作ったサラダが!
こ、こんなに緊張するものなのか…料理を食べてもらうというのは…!
「うん、美味しい」
「ええ、お肉と卵の焼け具合もちょうどいいし、パンも柔らかい。スープは特に美味しいわ」
「うむ、このスープは確かに絶品だな。我が国の城の食堂で出てもおかしくはないレベルだね」
「おかわり!」
「リガル早いよ」
お、おお!
さすがアレク様。
私の作ったベーコンエッグも、ちゃんと食べられるようだ。
よかった…。
「美味しいってー。よかったねー、オルガー」
「はい。…そう言っていただけると、こんなに嬉しいものなのですね」
「ねー」
「ところで、クリス君は?」
「…………」
「…………」
「…ん?」
アーノルス様…クリス様のことを聞いてしまいましたか…。
「…その…クリス様は…」
「実は昨日からずっと味見してもらってたからー…」
「…満腹で寝込んでしまわれて…」
「…………彼が満腹になる程食べさせたのか…」
「えへー」
「え、えへ…」
どんな大飯食らいにも限界あるんだなー…なんて。
「…美味しいなぁ」
「スープのお代わり持ってきますか?」
「いいの? ありがとう! あ、ベーコンエッグももう一つ…」
「え、あ、では…すぐに作って参ります」
アーノルス様、気に入ってくださったんだな。
良かった。
「…………確か、タイムリミットは今日までだな」
「そうね」
「はい。……………」
食後のお茶を飲むアーノルス様たち。
私はその横でお茶を淹れたアレク様をちらりと見た。
冒険者たちは集まってきている。
勇者トール様も現れた。
だが…。
「魔法使いが足りないのであったな? アレク」
「そだねー。いないねー」
「その場合どうするつもりなの?」
「スドボに集まっている人たちにも、明日ナドレへ出発してもらえるように予定を書いた手紙を鳥さんに運んでもらっているから…ナドレでスドボに来ていたパーティーと合流後に再編成してもう一度どうするのがいいのか考えるよー。あんまり慣れてないメンバーで戦闘はさせたくないんだけど仕方ないねー」
「そうだな…。確かにまだチームワークの出来ていないパーティーは、信頼関係も構築されていないだろう。冒険者として最低限の戦力にはなるだろうが…皆が『傭兵』というわけではないだろうしな」
…『傭兵』とは私…『戦士』と同じ中級職業だ。
様々なパーティーを渡り歩く用心棒であり、それ故に高いコミュニケーション能力を持つ。
複数の職業で『職業能力引き継ぎ』のスキルを持つ傭兵は多種多様な職業のスキルを持つため重宝される。
私は何か一つを極める方が向いているから『職業能力引き継ぎ』のスキルは会得していないが、各国首都にある『職業訓練施設』で訓練を受ければ簡単に取得できるスキルだ。
なので、魔法使い経験のある傭兵が一人いるだけでも違うだろうな。
「…………」
…その傭兵の特性をアレク様はご存知なのだろうか?
その可能性はあるな。
冒険者の中でもそんな複数の職業スキルを引き継いでいる傭兵は多いわけではないが…。
「あの、アレク様…良いですか?」
「うん? なぁにー?」
「傭兵の中には『職業能力引き継ぎ』というスキルを持つ者もいるのです。簡単に言うと、複数の職業を経て、その職業のスキルを転職後も使える…と言うことなのですが」
「…へえ、じゃあ魔法使いだった経験のある傭兵も居るってこと? …そういえば役人さんが集めたステータスは名前と年齢と職業くらいだったしなぁー」
「傭兵は何人か居たのかね?」
「十人居なかったー。七人くらい」
「調べ直してみよう。我輩も手伝う」
「俺も俺も! 俺も手伝うよ!」
「私も…」
「オルガはクリスにお化粧品の買い物付き合えって言われてなかったー?」
「い、行きませんよ」
「あらぁ、面白そう! ワタシも一緒に行ってあげる」
「いえ、いいです! そもそもそんな、行きませんから!」
リリス様まで何を言っているのやら!
お断りです!
化粧だなんて、考えただけでめんど……。
「はぁ〜〜〜? ボクにこんな苦しい思いをさせておきながらタダでトンズラこけると思ったら大間違いなんだけどぉ〜〜?」
「ひいいいぃ⁉︎」
我々が泊まらせてもらっている食堂の並べた椅子の上で寝ていると思っていたクリス様がま、真後ろに現れた!
満腹でダウンしていたはずなのに⁉︎
「大丈夫大丈夫、ボクがオルガにお化粧の仕方を教えてあげるから。可愛くしてあげるよ〜」
「ひええ! い、いいですいいです怖いです大丈夫です必要ないです!」
「あらダメよ〜。お化粧は女の嗜みよ〜? アーノルスもそう思うわよね?」
「え? あ、ああ、まあ……。でも本人が嫌がっているのに無理やりは良くないんじゃないか…?」
「はぁ?」
「ひえ…⁉︎ ……いえ。なんでもありません……」
「アレクもオルガは可愛くなると思うよねぇ〜〜?」
「え? オルガは今でも十分可愛…………」
「ね?」
「(うわ、怖)…………うん。もっと可愛くなるよ……」
ア、アーノルス様にアレク様まで⁉︎
「は〜いけって〜い。オルガは今日お化粧をお勉強の日〜」
「え、待っ! せ、戦士に化粧など……!」
「女性専門道具屋へレッツゴー! オルガは肌綺麗だから映えるわよ〜! おーっほっほっほっほっほっ!」
「ぎゃあああああ!」
【改ページ】
********
「まずはベースだよ」
「べ、ベース……」
はい、と道具屋で買った複数の小瓶や薄っぺらな小箱を並べて行く。
部屋はリリス様が泊まっている宿屋の一室。
左右をお二人に固められ、逃げ場はなさそうである。
か、覚悟を決めるしかないのか…。
「いいかしら? オルガ。お化粧は大きく三段階に分かれるの」
「え、三段階なんですか?」
「そう、あまり難しく考えなくていいわ。顔を洗って化粧水などで整える。ベースを塗る。粉を叩き込む。とりあえずこれが基本と覚えてちょうだい」
「!」
え、た、たったそれだけ⁉︎
想像していたのと全然違う…!
「まあ、基本はそれだけどもっと色々やろうと思えばやれるだけできるのがお化粧だから〜」
と、クリス様が取り出されたのは紅や頬紅。
あと、私にはよく分からない色取り取りの粉?
小瓶も何種類も…。
あ、やっぱり私には無理な気がしてきた…。
「まずは洗顔剤を選びましょう。洗顔剤に限らず化粧品は肌に直接塗るものだから体質に合わせて選ぶのが基本よ。肌に合わないものはどんな高価なものでも使わなくていいの。とにかく、自分の肌質に合ったものを選ぶ! これは全てにおいて共通の基本よ」
「は、はあ…」
「というわけで、この街で手に入る三種類を用意してみたよ〜」
「…………」
どん、と手前に並ぶ三つの洗顔剤。
瓶が二つと、石鹸が一つ。
石鹸…出来ればこれがいいな。
「オルガは何が気になるかしら?」
「せ、石鹸でしょうか?」
「じゃあまずはこれで顔を洗ってきて。はい、泡立ちネット」
「は…」
使い方はネットに石鹸を入れて泡立てる。
そして、その泡で肌を優しく洗う…らしい。
洗面台に追いやられ、言われた通り試してみる。
泡で額と鼻、頰顎の下を重点的に…。
…………面倒臭いな。
「次に化粧水と乳液で肌を整えるのよ」
「洗顔で毛穴の汚れを取ったばかりなのに、そこに化粧品を塗りたくってしまうと毛穴が開いちゃうんだ〜。化粧水で毛穴を引き締め、乳液でカバーするんだよ〜」
「は、はあ…」
い、意外ときちんとした理由があるものなのだな…。
ちなみにこの時、コットンというものに化粧水を湿らせて使うのが良いそうだ。
理由は衛生的だから。
そして、化粧水が手の皮膚に入り込んで顔に使う分を奪わぬ為なんだとか。
「ちなみに知らない子も多いかもしれないけど乳液には化粧を落とす時にも使えるのよ。クレンジングオイルが切れた時とか試してみてね」
「誰に言ってるんですかリリス様…?」
「さて、いよいよベースを塗るよ。ベースは所謂、化粧下地。液体(リキッド)タイプとクリームタイプがある。これは、自分の肌色に近い色のものを使おうね〜」
「え、ええと…」
「オルガはこの色かしら? 因みに、お肌のシミ、ソバカスが気になるお年頃の方はコンシーラー。赤みなどが気になる方はコントロールカラーを使うのをお勧めするわ。下地を塗る時一緒に使うのよ」
あ、色々やるってそういう…。
人によって悩みはそれぞれだからか。
「化粧下地には肌のデコボコをカバーして、ファンデーションのノリや発色を良くする効果があるんだ〜。はい、塗ってみて〜」
「手で塗って良いのですか?」
「いいよ〜。今日はクリームタイプを使ってみようか〜」
「は、はい…」
「次はいよいよファンデーションね! 粉…パウダータイプが一般的だけど、リキッドタイプやクリームタイプもあるわよ。もちろんこちらも地肌に近い色合いでないと違和感が出るから注意してね。首の色との差が出るとフツーに笑えるから」
「…………」
た、確かに…。
「リキッドタイプとパウダータイプでは付け方が違うんだよ〜。まずリキッドタイプは中央から外側に流して肌へ乗せて伸ばすの。少し優しく叩きながら乗せるんだよ〜」
「む、難しいです」
どういう事だ。
叩きながら、乗せる⁉︎
中央から外側へ広げていくのはなんとなくわかるけれど…。
「じゃあやっぱりパウダータイプにする? パウダータイプのコツは顔の筋肉に沿うようにスポンジで流すように塗っていくの」
「そちらの方が、分かりやすいですね」
「まあ、初心者にはやっぱりパウダーだよね〜。リキッドタイプはフェイスパウダーで最後整えないと崩れやすいし」
「そうね」
……何言ってるのかよく分からない。
とりあえず自分の肌色に近いものを、また塗っていく。
確か、パウダータイプは筋肉に沿うように………こう、だろうか?
「うん、いい感じ!」
「最低限の化粧はこれで完成よ! 他にも濃い目のパウダーをこういう筆で顎のエラや鼻の横のラインに使うと顔立ちを細く見せたり、鼻を高く見せたり出来るわ」
「ほ、ほええ…」
「でもここからがもっと可愛くなるところなんだから〜!」
「え⁉︎ お、終わりじゃないんですか⁉︎」
「当たり前よ」
当たり前って言われた⁉︎
「最低限って言ったでしょう? ここからがお化粧の面白いところよ」
「アイライン、アイシャドウ、チークをしてからが化粧だからね〜?」
「えええええ⁉︎」
言ってること無茶苦茶になってませんか⁉︎
そして平然と取り出したのは黒い筆と謎の色とりどりの粉と赤やピンクな粉。
……な、なにこれ…⁉︎
ど、どうするものなんだ……⁉︎
「まずは目をくっきりぱっちりさせま〜す。オルガは二重だからわざわざ二重にする必要ないね〜」
「???」
「女子にとって一重は悩みの一つよねぇ。それはそれで可愛いと思うけど…。一重で悩んでる方はアイラインを駆使するとできるわよ!シャドウを入れるとボッタクなるから気を付けてね!」
「誰に言ってるんですか……?」
「は〜い、アイラインいくよ〜」
「ひ、ひええ⁉︎」
突然ペンを向けられる。
アイライン?
な、な、な⁉︎
「なにを!」
「何ってアイメイク〜」
「目元のメイクよ。目元のメイクに必要なのは主に四つ。ビューラー、アイライナー、マスカラ、アイシャドウ。ビューラーは睫毛を上向きにさせるこれよ」
こ、これ。
変な形のハサミのようなもの。
「人にもよるけど、根元、中間、先端付近と三回に分けて使うとよりしっかり睫毛が上向きになるわ」
「アイライナーはアイラインを引くためのもの〜。目尻から内側にかけて線を入れていくんだよ。これもリキッドやペンタイプなんかがあるけど、自分が使いやすいものを選んでね〜」
「あまり太めに入れると滲むから程々に。目が小さい人は目元にも引いていいわ。で、よく勘違いしてる人がいるんだけど瞼が閉じる部分…睫毛の生え際の下にまで塗ると眼病の温床になるからやらないようにね!」
「化粧落とす時大体忘れるし〜、取りづらいからね〜」
「???」
そんな恐ろしいこと、初心者の私がやるはずもないのだが…。
「そしてマスカラよ。マスカラは睫毛をより太くはっきりさせて見せるもの。上睫毛はストレートに回しながら塗って、下睫毛は少し揺らしながら塗るといいわ」
「オルガは睫毛長いからきっと映えるよ〜」
「は、はあ…」
そろそろ好きにしてくれ…と思えてきたな。
「アイシャドウ。女子の目元のイメージを左右するわ。薄い色から乗せるとくっきり、濃い色から乗せるとふんわりに見えるわよ!」
「アイラインを塗ったところに濃い色を塗って、その上に中間の色、瞼全体に薄い色を塗る。ざっくりこんな感じ!」
「は、はあ…」
…なんか勝手に目元を二人に塗りたくられ始めたな…。
「そしてチークね。チーク…頬紅は女性をより色っぽく見せるものなの」
「頰紅と口紅は男をその気にさせるアイテムなんだよ〜」
「なっ! い、いりませんよ⁉︎」
「まぁまぁ、そう言わないで! チークはピンクやオレンジで血色を良く見せるわ。笑ったときに上がる頬骨の位置よりも気持ち下に、黒目の真ん中よりも外側。二、三回柔らかく塗るのが鉄板ね」
「口紅は赤からオレンジまで多種多様な色があるけど、控えめならオレンジ系、可愛くならピンク系、色っぽくなら赤系かな〜」
「オルガはオレンジかピンクがいいわね〜」
きゃっきゃとしながらお二人が私の顔になにかを施していく。
やっと終わったと思ったら「目を開けていいわよ」とリリス様に声をかけられる。
「…………ど、どうなっているんですか?」
「待って、髪もいじらせて〜」
「え、ええー…」
櫛で髪をとかされ、何かもぞもぞ編まれているような…?
「はい、出来た〜」
「あらやだかわいい〜!」
「???」
「なぁんだ、オルガってばなかなか元はいいんじゃな〜い。……あ、そうだ! トールやアーノルスたちにも見せてあげましょうよ!」
「あ、それい〜! アレクもきっと驚くよ!」
「え、あ、あの、ちょっと…」
「ゴー!」
「行こ〜お!」
「ちょっとおぉ⁉︎」
と、お二人に連れてこられたのは役場!
ひ、ひえええ!
こ、こんな自分がどうなっているかも分からない状況で役場⁉︎
確かに勇者お二人のパーティーとアレク様は今日一日、奪還作戦について話し合うと仰っていたけれどー!
「アレク!」
「アーノルス! トール! ご覧なさい!」
「⁉︎」
「!」
「おー?」
会議室には勇者お二人のパーティーと、アレク様が揃っていた。
扉を容赦なく開いて胸を張るリリス様とクリス様。
目を見開くご一同。
急に恥ずかしくなる。
こんなゴツい、男の装備だって装備出来てしまう戦うしか取り柄のない脳筋戦士が化粧なんてして…!
ひ、ひいいぃ!
いくらお二人の腕でも私を女らしくするなんて無理だったに違いない!
見ろ、皆さんの驚いた表情を!
目も当てられない、恥ずかしい!
「も、申し訳ありません! や、やっぱり私は無理です!」
「あ〜〜! 逃げた!」
「こら! 待ちなさいオルガ! んもう! アンタたちがさっさと褒めないから逃げられたじゃない!」
「え、あ、す、すまない!」
「…………」
はぁ、はぁ、はぁ……。
思わず街外れの農場まで来てしまった。
軽いランニングだな、これでは。
……まあ、この息切れは恥ずかしさからくるもので体力的に全然問題ないのだが!
「…………」
牛が水を飲む盥(たらい)か……。
…少しだけ…自分の姿を見て、確認だけしてから宿屋に戻って化粧を落とそう。
せっかくお金をかけてまで施してもらったのだから……。
「…………これは……」
水面に顔を覗かせてみる。
これが、私?
馬鹿な、そばかすは消えているし目がぱっちり…!
唇もふわふわで血色もいい。
血色なら肌艶もだ。
髪はサラサラになって、左右に編み込みがあった。
……女の子だ。
女の子がいる。
誰がどう見ても……女の子……。
「オルガ!」
「⁉︎」
誰かが走ってくる。
振り向くと、アーノルス様⁉︎
「ア、アーノルス様⁉︎ どうされたのですか⁉︎」
「ど、どうもこうも…君が突然走って行ってしまうから…」
「そんな…! わ…私のことなどを…わざわざ…。…ハッ! ではまさか私なんかの為に会議が中断して…⁉︎」
「そりゃ…、…こんな可愛い人を一人で歩かせるなんて紳士のすることじゃないからね。会議も中断してしまうさ」
「え…」
手を握られる。
…私よりもがっしりした手。
男の人の手とは、こんなに大きくて暖かくて…がっしりしていたのか…?
小さな頃にカルセドニーと繋いだ手は、こんな風じゃなかったのに…。
「あ、あの…」
「見違えたよ。…あ、いや失礼…。……、…アレク君の言う通りだったのだな」
「…アレク、様?」
「ああ、君はいつも可愛かったんだな。…でも、私はそれに気付かなかった。リリスとクリス君が、本来の君の可愛らしさを引き出すまで分からなかったなんて…」
「……ア、アーノルス様…?」
何を仰っているのだろう?
私が可愛いわけがない。
いや、まあ…先程水面に映った女の子が私なら…そう、見えなくもないのかもしれないけど…。
だが、こんな装い、とてもじゃないが毎日は無理だ!
きょ、今日限り!
今日だけ!
うん、明日からはいつもの私に戻る!
…き、きっとアーノルス様もお世辞で褒めてくださっているのだろう!
アーノルス様のお国は女性を敬う文化があったからな!
「…オルガ? す、すまない?」
「え?」
「い、いや、変な顔になっていたから…」
「も、申し訳ありません⁉︎」
「いやいや! …え、ええと…もしかして手は離した方がいいかな?」
「手…?」
手…。
手!
「も、申し訳ありません!」
な、なんでアーノルス様と手を繋いでいるんだ私は⁉︎
い、いつの間に⁉︎
「え⁉︎」
離そうとしたら逆に握られた⁉︎
ど、どうして!
「アーノルス様?」
「嫌でないなら…このまま役場までエスコートさせてもらっても?」
「ええ⁉︎ な、何故⁉︎」
「何故って……」
青い瞳が宙を泳ぐ。
な、なにか失礼に当たるようなことを言ったのか?
アーノルス様のお国ではこれが普通?
え? でもリリス様が手を握られてエスコート? というのをされているところは見た事がないが…?
「あ、あの…申し訳ありません…」
「え?」
「わ、私はアーノルス様のお国の文化に、そこまで明るい訳ではなくて…」
「あ! そ、そうか、それもそうだね! ごめんごめん!」
ス、と離される手。
すぐに胸元に退けて、握り締める。
あ、れ?
胸が、ドキドキしている、な?
…………そんなに全力で走ったつもりはないのだが……???
「…………。…何にしても、一緒に役場に戻らないかな? 奪還作戦に関してもう少しパターンを考えてから明日、ナドレに発つ事になったんだ。君たちのパーティーも協力してもらう事になった訳だし…」
「はい!」
「…………」
会議!
私も参加していいのか!
ならば、是非!
アレク様の考えた作戦なら戦士の私でもきっと分かり易いはず!
……直接お前を助けに行けるかどうかはまだ分からないけれど…、必ず助けに行くからな…カルセドニー!