にょろとふて【短編】
 
「おーい、にょろ──おらん!?」

 にょろの檻もテーブルもない!? タンスだけ残してどこに行った!?

「そうか」

 沢山の箱があったが、そうか。あれは引っ越しというやつだな。にょろは飼い主とどこかへ行ってしまったのか。

 何もないと、だだっ広い部屋だな。ここは、こんなにも静かで広かっただろうか。心なしか寒くも感じる。

 ん? なんだ? 忘れ物か? いや、違うな。

「ばかやろ」

 別れの挨拶のつもりか? えさを五つも置いていきやがって。

「……別れも言えなかったな」

 帰るか。

 振り返ったらにょろがいるかもしれない。そんな考えは無駄なことも解っているのに、おれは振り向いて一人寂しくタンスの裏に潜り込んだ。


 
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