重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 3
過保護の理由
その後、香澄は御劔家の家族との食事会に向けて日々を過ごしていた。
だが二月二十日の木曜日に、スマホに健二から連絡がきた。
『そろそろ会わない? 週末とかどう?』
(えぇと……)
カレンダーアプリを確認すると、今週末は翌週の月曜日が休日で連休だ。
そして金曜日は例の三人組と飲み会をして、土曜日からは佑と都内デートの予定が入っている。
『今週末は予定が入っています。ごめんなさい。二月末から三月初めにかけてならOKです』
返事を打つと、すぐ返信があった。
『じゃあ、二十九日土曜日に。ランチして、どっかブラブラしてカフェ入って、夕飯どっかで食べよう』
(まるでデートだな……)
心の中でぼんやりと突っ込みを入れながら、約束していたので……とOKの返事をした。
「佑さん」
「ん?」
香澄はローソファでゴロゴロしていて、佑はテレビ前のソファにいる。
御劔邸に来て一か月少しになるが、我ながらかなり馴染んでいてたまに申し訳なさすら覚える。
「例の、健二くんと会う約束、月末土曜日になりました」
「あぁ……」
本を読んでいた佑は顔を上げ、すぐにスマホでカレンダーを確認する。
「そうか……。……うん、まぁ……気を付けて」
「ありがとう。遅くならないから」
「うん。必要以上に不安がらなくても、疑ったりしてないから安心して」
「……うん。ありがとう」
大人の対応をしてくれる佑に感謝し、香澄はそっと微笑んだ。
**
翌日、金曜日の就業時間になって、社長秘書室に成瀬、水木、荒野がやって来た。
そろそろパソコンを落とそうと思っていた時、社長秘書室のドアがノックされ、香澄はすぐに対応する。
「はい」
ドアを開けると、帰り支度をした三人が立っていて、笑顔で手を振っている。
「今、準備しますね」
彼女たちは、東京に来て初めて「友達になれそう」と思った人たちなので、こうやって一緒に会社帰りに飲み会……という誘いは嬉しい。
ニヤニヤする顔を抑えられず、香澄は口元を緩ませながらパソコンをシャットダウンする。
「松井さん、お先です」
「はい」
「社長にもご挨拶してきますね」
一言断ってから、香澄は車掌室のドアをノックして中に入った。
「失礼致します」
「ああ、もうそんな時間か」
「それでは、予定通り今日は別途帰宅しますね」
香澄が嬉しそうな顔をしているからか、佑も思わず笑顔になっている。
「気を付けて。迎えをやるから、帰る前に店から一度連絡して。小金井さんに行ってもらうから」
「大丈夫ですよ。電車も地下鉄も沢山ありますし、終電に間に合う時間には終わりますし」
「駅や乗り換え、間違わずにできる?」
けれどそう言われ、「う……」と固まってしまった。
時間があるのなら、スマホで調べて行けるだろうが、終電というリミットがある。
「……ご厚意に、甘えさせて頂きます……」
「うん」
にっこり微笑まれ、何だか佑にはずっと勝てない気がする。
それはそうと、今は成瀬たちが待っているので急がなくては、と思い、佑に一礼する。
「赤松さん」
「はい?」
振り向くと、佑が微笑んでいる。
「気を付けて」
「……はい」
彼の微笑みの意味が分からず、香澄はもう一度会釈をしたあと、コートを取りに準備室に向かった。
(駄目だな……。気持ちが保護者みたいになってる)
香澄が出て行ったあと、佑はプレジデントチェアの背もたれに背中を預け、溜め息をつく。
自分が責任を取らないと、という思いが強いからか、つい彼女の面倒を何でもみてしまおうとしている。
香澄の事について先日松井と二人で雑談していた時、注意をされたのを思い出す。
『婚約者として心配されるのは結構ですが、赤松さんは二十七歳の女性ですからね。移動も、飲食も一人でできますし、自分で稼いだお金を持っています。社長から見れば頼りない額かもしれませんが、貯金に関しても堅実な考え方をしています。赤松さんは立派な大人の女性ですから、あまり何でもしすぎると羽をもぐ事に繋がります』
羽をもぐ、という言い方に思わずギクリとした。
本来ならヒラヒラと自由に飛んでいける蝶を、佑が手元に置いておきたいばかりに美しい羽をもぎ、標本にしようとしている様子を思い浮かべてしまった。
そして自分が理由をつけて香澄の自由を奪おうとしているのに気づき、猛省する。
(大切にしようと思った恋人というのが初めてだから、どこまで大切にするのが〝普通〟なのか、分からないんだよな……)
溜め息をついた佑は、頬杖をついて社長秘書室に続くドアを見た。
(そりゃあ、普通の女性なら交通機関を使って帰宅するのは、常識中の常識だけど……)
松井の言いたい事は分かる。
その上で、佑なりの不安材料もあった。
自分は国内でも海外でも、有名人扱いされている。
国民全員が知っているほどではないが、興味のある人なら知っている。そういうレベルだ。
そもそも、総理大臣の名前も、国民全員が認識している訳ではないので、全員に知られるというのは限りなく無理な話だ。
だがChief Everyの服ならば、佑以上に知名度があるかもしれない。
そこの社長と言えば、誰もが「ああ……」と頷くだろう。
だからこそ、これまで独身の佑を狙う女性が多くいた。
三十歳を超えて火遊びするのもやめ、一人でゆっくりとバーで酒を味わっていたら、かなりの確率で逆ナンされる。
不本意にも、冗談なのか分からないが、日本人、外国人問わず男性にまで声を掛けられるので辟易としていた。
なので香澄と出会うまでの最近は、個室で飲む習慣がついていて、それをよく親友に「寂しい」と笑いのネタにされていた。
佑だって夜景を見下ろして美味い酒を飲みながら、本を読んだり考え事をしたい時もある。
そうさせてくれないのが、自分の知名度だと思っていた。
なので、自分の隣に香澄という存在ができて、快く思わないだろう人が多くいるのを感じている。
今はまだ香澄の存在そのものが知られていないと思うが、百合恵の件から話が広まっていくかもしれない。
(だから、過保護にもなるんだよな……)
頬杖をついたまま、佑はもう一度溜め息をつく。
護衛を付けたのは念のためだが、今後は必ず必要になってくる予感がする。
先日は、うっかりして香澄が百合恵にビンタされるハメになった。
ああいう事が、今後起こらないとは限らない。
関係があった女性とは、〝いい付き合い〟をしてきたつもりだが、全員ではない。
二十五歳の時に、結婚しようと思った女性と酷い別れ方をして、その直後の荒れた彼は良くない付き合い方をしていた。
それこそ、自分に気があるなら誰でも……と考えてしまった、〝魔の差した〟時期だ。
傷ついている自分が刹那的にでも慰められる方法があるなら、相手の女性がどんな人なのか深く考えず、誘いに応じてしまった。
今思えば、黒歴史だ。
その時の女性との関係が週刊誌で報道され、痛い目を見た。
反省してからは、すっぱ抜かれないように細心の注意を払って、秘密を守れる女性を厳選して……と変化した。
どちらにせよ、今思えば最低なのは変わらない。
彼女たちは純粋に自分を想ってくれていたのに、自分は女性を食い物にしていたのだ。
(そんな俺が、いまさら香澄を大切にしたいなんて言っても、笑われるのかもしれない)
後ろめたい思いに駆られるのは、反省しているからだ。
けれど、香澄を大切にしたいという気持ちは変わらない。
(俺が今できる事をするしかない。転ばぬ先の杖が悪いなんて、松井さんにも言わせない。俺自身の事ならいいけど、香澄が被害を被るのは絶対に避けたい)
もう一度、松井や護衛たちと話し合って、香澄の身の安全について確認する必要があると考えた。
「ん……っ」
両手を組んでひっくり返し、大きく伸びをする。
「はぁ……」
溜め息をついてから、佑は香澄の今日の飲み会が上手くいくよう願った。
**
だが二月二十日の木曜日に、スマホに健二から連絡がきた。
『そろそろ会わない? 週末とかどう?』
(えぇと……)
カレンダーアプリを確認すると、今週末は翌週の月曜日が休日で連休だ。
そして金曜日は例の三人組と飲み会をして、土曜日からは佑と都内デートの予定が入っている。
『今週末は予定が入っています。ごめんなさい。二月末から三月初めにかけてならOKです』
返事を打つと、すぐ返信があった。
『じゃあ、二十九日土曜日に。ランチして、どっかブラブラしてカフェ入って、夕飯どっかで食べよう』
(まるでデートだな……)
心の中でぼんやりと突っ込みを入れながら、約束していたので……とOKの返事をした。
「佑さん」
「ん?」
香澄はローソファでゴロゴロしていて、佑はテレビ前のソファにいる。
御劔邸に来て一か月少しになるが、我ながらかなり馴染んでいてたまに申し訳なさすら覚える。
「例の、健二くんと会う約束、月末土曜日になりました」
「あぁ……」
本を読んでいた佑は顔を上げ、すぐにスマホでカレンダーを確認する。
「そうか……。……うん、まぁ……気を付けて」
「ありがとう。遅くならないから」
「うん。必要以上に不安がらなくても、疑ったりしてないから安心して」
「……うん。ありがとう」
大人の対応をしてくれる佑に感謝し、香澄はそっと微笑んだ。
**
翌日、金曜日の就業時間になって、社長秘書室に成瀬、水木、荒野がやって来た。
そろそろパソコンを落とそうと思っていた時、社長秘書室のドアがノックされ、香澄はすぐに対応する。
「はい」
ドアを開けると、帰り支度をした三人が立っていて、笑顔で手を振っている。
「今、準備しますね」
彼女たちは、東京に来て初めて「友達になれそう」と思った人たちなので、こうやって一緒に会社帰りに飲み会……という誘いは嬉しい。
ニヤニヤする顔を抑えられず、香澄は口元を緩ませながらパソコンをシャットダウンする。
「松井さん、お先です」
「はい」
「社長にもご挨拶してきますね」
一言断ってから、香澄は車掌室のドアをノックして中に入った。
「失礼致します」
「ああ、もうそんな時間か」
「それでは、予定通り今日は別途帰宅しますね」
香澄が嬉しそうな顔をしているからか、佑も思わず笑顔になっている。
「気を付けて。迎えをやるから、帰る前に店から一度連絡して。小金井さんに行ってもらうから」
「大丈夫ですよ。電車も地下鉄も沢山ありますし、終電に間に合う時間には終わりますし」
「駅や乗り換え、間違わずにできる?」
けれどそう言われ、「う……」と固まってしまった。
時間があるのなら、スマホで調べて行けるだろうが、終電というリミットがある。
「……ご厚意に、甘えさせて頂きます……」
「うん」
にっこり微笑まれ、何だか佑にはずっと勝てない気がする。
それはそうと、今は成瀬たちが待っているので急がなくては、と思い、佑に一礼する。
「赤松さん」
「はい?」
振り向くと、佑が微笑んでいる。
「気を付けて」
「……はい」
彼の微笑みの意味が分からず、香澄はもう一度会釈をしたあと、コートを取りに準備室に向かった。
(駄目だな……。気持ちが保護者みたいになってる)
香澄が出て行ったあと、佑はプレジデントチェアの背もたれに背中を預け、溜め息をつく。
自分が責任を取らないと、という思いが強いからか、つい彼女の面倒を何でもみてしまおうとしている。
香澄の事について先日松井と二人で雑談していた時、注意をされたのを思い出す。
『婚約者として心配されるのは結構ですが、赤松さんは二十七歳の女性ですからね。移動も、飲食も一人でできますし、自分で稼いだお金を持っています。社長から見れば頼りない額かもしれませんが、貯金に関しても堅実な考え方をしています。赤松さんは立派な大人の女性ですから、あまり何でもしすぎると羽をもぐ事に繋がります』
羽をもぐ、という言い方に思わずギクリとした。
本来ならヒラヒラと自由に飛んでいける蝶を、佑が手元に置いておきたいばかりに美しい羽をもぎ、標本にしようとしている様子を思い浮かべてしまった。
そして自分が理由をつけて香澄の自由を奪おうとしているのに気づき、猛省する。
(大切にしようと思った恋人というのが初めてだから、どこまで大切にするのが〝普通〟なのか、分からないんだよな……)
溜め息をついた佑は、頬杖をついて社長秘書室に続くドアを見た。
(そりゃあ、普通の女性なら交通機関を使って帰宅するのは、常識中の常識だけど……)
松井の言いたい事は分かる。
その上で、佑なりの不安材料もあった。
自分は国内でも海外でも、有名人扱いされている。
国民全員が知っているほどではないが、興味のある人なら知っている。そういうレベルだ。
そもそも、総理大臣の名前も、国民全員が認識している訳ではないので、全員に知られるというのは限りなく無理な話だ。
だがChief Everyの服ならば、佑以上に知名度があるかもしれない。
そこの社長と言えば、誰もが「ああ……」と頷くだろう。
だからこそ、これまで独身の佑を狙う女性が多くいた。
三十歳を超えて火遊びするのもやめ、一人でゆっくりとバーで酒を味わっていたら、かなりの確率で逆ナンされる。
不本意にも、冗談なのか分からないが、日本人、外国人問わず男性にまで声を掛けられるので辟易としていた。
なので香澄と出会うまでの最近は、個室で飲む習慣がついていて、それをよく親友に「寂しい」と笑いのネタにされていた。
佑だって夜景を見下ろして美味い酒を飲みながら、本を読んだり考え事をしたい時もある。
そうさせてくれないのが、自分の知名度だと思っていた。
なので、自分の隣に香澄という存在ができて、快く思わないだろう人が多くいるのを感じている。
今はまだ香澄の存在そのものが知られていないと思うが、百合恵の件から話が広まっていくかもしれない。
(だから、過保護にもなるんだよな……)
頬杖をついたまま、佑はもう一度溜め息をつく。
護衛を付けたのは念のためだが、今後は必ず必要になってくる予感がする。
先日は、うっかりして香澄が百合恵にビンタされるハメになった。
ああいう事が、今後起こらないとは限らない。
関係があった女性とは、〝いい付き合い〟をしてきたつもりだが、全員ではない。
二十五歳の時に、結婚しようと思った女性と酷い別れ方をして、その直後の荒れた彼は良くない付き合い方をしていた。
それこそ、自分に気があるなら誰でも……と考えてしまった、〝魔の差した〟時期だ。
傷ついている自分が刹那的にでも慰められる方法があるなら、相手の女性がどんな人なのか深く考えず、誘いに応じてしまった。
今思えば、黒歴史だ。
その時の女性との関係が週刊誌で報道され、痛い目を見た。
反省してからは、すっぱ抜かれないように細心の注意を払って、秘密を守れる女性を厳選して……と変化した。
どちらにせよ、今思えば最低なのは変わらない。
彼女たちは純粋に自分を想ってくれていたのに、自分は女性を食い物にしていたのだ。
(そんな俺が、いまさら香澄を大切にしたいなんて言っても、笑われるのかもしれない)
後ろめたい思いに駆られるのは、反省しているからだ。
けれど、香澄を大切にしたいという気持ちは変わらない。
(俺が今できる事をするしかない。転ばぬ先の杖が悪いなんて、松井さんにも言わせない。俺自身の事ならいいけど、香澄が被害を被るのは絶対に避けたい)
もう一度、松井や護衛たちと話し合って、香澄の身の安全について確認する必要があると考えた。
「ん……っ」
両手を組んでひっくり返し、大きく伸びをする。
「はぁ……」
溜め息をついてから、佑は香澄の今日の飲み会が上手くいくよう願った。
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