重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 3
健二の視点
「俺も好きだよ。……香澄が心穏やかに、幸せに、笑顔でいられるなら何でもする」
切なげに微笑んだ佑は彼女を抱き締め、何度も背中を撫でる。
香澄の頭にキスをしてから――、浴室の壁を暗い目で睨んだ。
風呂から出たあとは、佑がいつものように念入りに手入れをしてくれた。
かいがいしく世話を焼いてくれる彼を見ると、愛してくれていると実感できる。
別に尽くしてくれなくても愛は感じるが、佑を見ていると本当に自分を大切にし、愛でてくれているのが分かる。
彼のように完璧で特別な人にそうしてもらうのは勿体ないと思いつつ、心底ありがたいと思うのだった。
そして今、香澄はキャミソールとタップパンツという薄着で、ベッドの上で佑にくっついている。
一日出歩いて疲れたのと、精神的な疲れでもう目蓋がくっつきそうになっていた。
「……なぁ、香澄」
「ん?」
「一つお願いがあるんだけど、仕事の関係も兼ねて、スマホに入れてほしいアプリがある」
「ん? なに?」
アプリと言われ、香澄は目を瞬かせる。
「いわゆるGPSアプリと呼ばれるものだけど、今回みたいに何かがあって心配な時、すぐ駆けつけられるようにしたいんだ。これから仕事で出張先で道に迷う時もあるかもしれない。特に海外だと不安になる」
「……そうだね。それは、賛成」
ほとんど目を閉じた状態で、香澄は承諾する。
「何て言うアプリ?」
ムニャムニャしながら、香澄は手を伸ばしてスマホを取る。
顔認証でスマホを立ち上げたが、仰向けにスマホを持ったまま動かせないぐらい眠たい。
「俺がアプリを入れておいてもいい? 明日説明する」
「うん……。好きにして。終わったら適当に置いておいて……」
佑にスマホを渡したあと、香澄は身じろぎをして寝心地のいい体勢を探す。
そしてスゥ……と寝入ってしまった。
「ありがとう」
佑は香澄の額にキスをし、笑みを深めてスマホを操作しだした。
**
「何だ、香澄のやつ」
健二は都内にある自宅に帰り、着替えてから冷蔵庫にあった缶ビールを出し、開ける。
片手でプルリングを引き、不機嫌な目で何も映っていないテレビを睨んで、最初の一口を飲んだ。
「せっかく誘ってやったのに」
誘ってご馳走しただけでなく、終始紳士的に接していい思いをさせてやった。
(彼氏がいるのは分かっているけど、少しぐらい昔を懐かしんで仲良くするぐらい、いいだろ)
チッと舌打ちをし、健二は喉を鳴らしてビールを飲む。
コーヒーショップでまさかの再会を果たした時は、あまりに見違えて二度見したほどだ。
香澄はもともと、磨けば光る部類ではあったが、本人にまったく光る気がなかった。
見かねて少し外見に気を遣ったらどうかと言うと、服などを買うためにバイトを始め、そこそこ見られるようになった。
(元は、田舎の高校生が、そのまま大学生になった感じだったもんなぁ)
化粧っ気のない香澄は、素材はいいものの健二が求めていた〝可愛い彼女〟にはなかなかならなかった。
黙って座っていれば透明感があり素朴な美しさがある……と言ってもいいが、口を開くとあまりの色気のなさに閉口した。
オリエンテーションでは、周囲の男友達は分かりやすい目立つタイプに気を引かれていたが、健二は原石を見つけたと思っていた。
まっすぐでツヤツヤな黒髪に、コロンと大きな目。化粧をしていなくても肌理の細かい肌をしていて、何より胸が大きい。
最初は安い、体に合わない下着をつけていたのか目立たなかったが、彼女がバイトを始めてから「下着も気を遣ったら?」と誘導すると、どこに隠れていたというほど立派で魅力的な胸が現れた。
自分がプロデュースしたのだという誇りが芽生え、当然彼女も自分に感謝していると思っていた。
だというのに香澄の中身はいつまで経っても田舎娘で、せっかく可愛くなりつつあるというのに、まったく変わらない。
(普通なら、自信をつけてもう少し大胆になるとかあるだろ。そうしたらもっと、イケてる奴らにも目を掛けてもらえて、もっと大学生活を楽しめたかもしれないのに)
覚えている限り、香澄は高校時代からの友人らしい岩本麻衣という女子とばかりいて、たまにつるんでいる女子がいると思えば、全員地味なタイプばかりだった。
すすきのの居酒屋でバイトを始めたというから、仕事が終わったらクラブに来ないかと誘っても、「帰りの電車がなくなるから」というつまらない返事ばかり。
告白して付き合ったというのに、やっている事は高校生の延長のようなデートばかり。
(ガキじゃねぇんだぞ)
高校を卒業してからまだ一年も経っていないだけなのに、当時の健二は酷く憤って苛ついていた。
大学一年生の夏休みには車の免許を取り、叔父に中古の車を譲ってもらう約束をしていた。
それだけでもう、健二は「自分は高校生の子供とは違う」という特別感を持っていた。
少し働けばラブホテル代ぐらい稼げる。
あとは胸が大きくて可愛い彼女を作るだけ。
そうしたら自分のキャンパスライフは薔薇色だと思っていた。
その栄誉ある彼女役に香澄を抜擢したというのに、彼女はいつまでも地味で初心なまま。
会話をしていても、バラエティ番組で何が面白かっただの、読書や映画、ゲームの事。
人間関係は「麻衣」ばかりで、あとはバイト先の話。
自分で香澄にアルバイトを勧めておきながら、あまりの接点のなさに閉口した。
香澄の中には「健二くん」が占める割合がひどく少ない。
付き合っているなら、もっと自分に興味を示すはずだ。
デートをしてプラプラ買い物をして、譲歩して香澄に似合いそうな物などを見てやったのに、曖昧に微笑んで「考えておくね」と言って興味を示さない。
(もっと可愛くなるために、俺なりに色々選んでやったのに)
同時に、当時の健二はとても性欲旺盛だった。
最初は香澄が彼女になったのだから、いつかセックスできると思ってずっと我慢していた。
だというのに、香澄は子供かと思うほど健康的なデートをしたがり、精神的についていけない。
男友達に誘われて合コンに行く時、最初は少し「香澄に悪いな」と思っていた。
だが合コンで会った女の子たちは、全員健二の求めるノリを持っていた。
一緒に騒いで楽しく、ボディタッチしても笑って許してくれる。ノリでキスをしてくれ、肩を組んだら身を寄せてくれる。求めたらラブホにも行ってくれる。
香澄にそんな事を求めれば、「え……」と真顔で引き、よそよそしく距離を取られてしまう。
けれど合コンで出会った彼女たちに本気にならないのは、遊びだと決めているからだ。
健二だって馬鹿ではないので、結婚するなら香澄のようなタイプが一番いいと分かっている。
そのために彼女に目を付け、少しずつ育てていくつもりだった。
だが思うようにいかず、相変わらず彼女は「麻衣、麻衣」ばかり。
香澄は精神的に幼いのだ。
手を出そうとしても距離が縮まらず、映画館デートで少し触ろうとしたら、非常識といわんばかりに注意された。
――俺よりあのデブの方がいいのかよ!
カッとなって本音を漏らしたら、今までにない激しい怒りをくらった。
喧嘩らしい喧嘩はしてこなったが、そこまで香澄が激しい感情を露わにしたのは初めてだった。
結果的に、自分は香澄の親友より〝下〟なのだと思い知り、このまま付き合っている意味があるのか悩み始めた。
だが、せっかく捕まえた〝原石〟を逃すのは惜しい。
何とか引き留め続け、それでも香澄の中身は変わらず、大学二年生の秋に我慢がきかなくなってしまった。
その当時はもう車を乗り回していたので、香澄を車に乗せてしまえばこっちのものだと思っていた。
香澄は酷く怯えていたように思えたけれど、健二だってずっと我慢し続けていた。
『お前、一生処女のまんまのつもりかよ』
抵抗する香澄に怒鳴りつけると、彼女は目をまん丸に見開いて震えた。
『どうせいつか処女じゃなくなるんだ。初めての彼氏と初体験したなら、思い出になるだろ』
ようやく香澄とセックスできて満足したが、そのあとの彼女の様子がおかしいというのは、人に言われるまで気付かなかった。
一回目のハードルが高かったようで、二回目からは誘えば素直に応じてくれた。
という事は、香澄も嫌じゃなかったと考えられる。
(なんだ、意外と行動に移してみれば、何てことなかったじゃないか)
そう思っていた時、覇気のない香澄から『もう無理。別れよう』と言われたのだ。
ハッキリ言って、何が何だか分からない。
丁度その頃は大学二年生から三年生に進級する頃で、ゼミが始まって行動パターンが分かれる時期だった。
香澄に近付こうとすると、岩本麻衣が敵意を露わにしてきて、どうにも近付けない。
どうにも香澄と友人たちの反応を見ると、自分が加害者のように思えてくる。
切なげに微笑んだ佑は彼女を抱き締め、何度も背中を撫でる。
香澄の頭にキスをしてから――、浴室の壁を暗い目で睨んだ。
風呂から出たあとは、佑がいつものように念入りに手入れをしてくれた。
かいがいしく世話を焼いてくれる彼を見ると、愛してくれていると実感できる。
別に尽くしてくれなくても愛は感じるが、佑を見ていると本当に自分を大切にし、愛でてくれているのが分かる。
彼のように完璧で特別な人にそうしてもらうのは勿体ないと思いつつ、心底ありがたいと思うのだった。
そして今、香澄はキャミソールとタップパンツという薄着で、ベッドの上で佑にくっついている。
一日出歩いて疲れたのと、精神的な疲れでもう目蓋がくっつきそうになっていた。
「……なぁ、香澄」
「ん?」
「一つお願いがあるんだけど、仕事の関係も兼ねて、スマホに入れてほしいアプリがある」
「ん? なに?」
アプリと言われ、香澄は目を瞬かせる。
「いわゆるGPSアプリと呼ばれるものだけど、今回みたいに何かがあって心配な時、すぐ駆けつけられるようにしたいんだ。これから仕事で出張先で道に迷う時もあるかもしれない。特に海外だと不安になる」
「……そうだね。それは、賛成」
ほとんど目を閉じた状態で、香澄は承諾する。
「何て言うアプリ?」
ムニャムニャしながら、香澄は手を伸ばしてスマホを取る。
顔認証でスマホを立ち上げたが、仰向けにスマホを持ったまま動かせないぐらい眠たい。
「俺がアプリを入れておいてもいい? 明日説明する」
「うん……。好きにして。終わったら適当に置いておいて……」
佑にスマホを渡したあと、香澄は身じろぎをして寝心地のいい体勢を探す。
そしてスゥ……と寝入ってしまった。
「ありがとう」
佑は香澄の額にキスをし、笑みを深めてスマホを操作しだした。
**
「何だ、香澄のやつ」
健二は都内にある自宅に帰り、着替えてから冷蔵庫にあった缶ビールを出し、開ける。
片手でプルリングを引き、不機嫌な目で何も映っていないテレビを睨んで、最初の一口を飲んだ。
「せっかく誘ってやったのに」
誘ってご馳走しただけでなく、終始紳士的に接していい思いをさせてやった。
(彼氏がいるのは分かっているけど、少しぐらい昔を懐かしんで仲良くするぐらい、いいだろ)
チッと舌打ちをし、健二は喉を鳴らしてビールを飲む。
コーヒーショップでまさかの再会を果たした時は、あまりに見違えて二度見したほどだ。
香澄はもともと、磨けば光る部類ではあったが、本人にまったく光る気がなかった。
見かねて少し外見に気を遣ったらどうかと言うと、服などを買うためにバイトを始め、そこそこ見られるようになった。
(元は、田舎の高校生が、そのまま大学生になった感じだったもんなぁ)
化粧っ気のない香澄は、素材はいいものの健二が求めていた〝可愛い彼女〟にはなかなかならなかった。
黙って座っていれば透明感があり素朴な美しさがある……と言ってもいいが、口を開くとあまりの色気のなさに閉口した。
オリエンテーションでは、周囲の男友達は分かりやすい目立つタイプに気を引かれていたが、健二は原石を見つけたと思っていた。
まっすぐでツヤツヤな黒髪に、コロンと大きな目。化粧をしていなくても肌理の細かい肌をしていて、何より胸が大きい。
最初は安い、体に合わない下着をつけていたのか目立たなかったが、彼女がバイトを始めてから「下着も気を遣ったら?」と誘導すると、どこに隠れていたというほど立派で魅力的な胸が現れた。
自分がプロデュースしたのだという誇りが芽生え、当然彼女も自分に感謝していると思っていた。
だというのに香澄の中身はいつまで経っても田舎娘で、せっかく可愛くなりつつあるというのに、まったく変わらない。
(普通なら、自信をつけてもう少し大胆になるとかあるだろ。そうしたらもっと、イケてる奴らにも目を掛けてもらえて、もっと大学生活を楽しめたかもしれないのに)
覚えている限り、香澄は高校時代からの友人らしい岩本麻衣という女子とばかりいて、たまにつるんでいる女子がいると思えば、全員地味なタイプばかりだった。
すすきのの居酒屋でバイトを始めたというから、仕事が終わったらクラブに来ないかと誘っても、「帰りの電車がなくなるから」というつまらない返事ばかり。
告白して付き合ったというのに、やっている事は高校生の延長のようなデートばかり。
(ガキじゃねぇんだぞ)
高校を卒業してからまだ一年も経っていないだけなのに、当時の健二は酷く憤って苛ついていた。
大学一年生の夏休みには車の免許を取り、叔父に中古の車を譲ってもらう約束をしていた。
それだけでもう、健二は「自分は高校生の子供とは違う」という特別感を持っていた。
少し働けばラブホテル代ぐらい稼げる。
あとは胸が大きくて可愛い彼女を作るだけ。
そうしたら自分のキャンパスライフは薔薇色だと思っていた。
その栄誉ある彼女役に香澄を抜擢したというのに、彼女はいつまでも地味で初心なまま。
会話をしていても、バラエティ番組で何が面白かっただの、読書や映画、ゲームの事。
人間関係は「麻衣」ばかりで、あとはバイト先の話。
自分で香澄にアルバイトを勧めておきながら、あまりの接点のなさに閉口した。
香澄の中には「健二くん」が占める割合がひどく少ない。
付き合っているなら、もっと自分に興味を示すはずだ。
デートをしてプラプラ買い物をして、譲歩して香澄に似合いそうな物などを見てやったのに、曖昧に微笑んで「考えておくね」と言って興味を示さない。
(もっと可愛くなるために、俺なりに色々選んでやったのに)
同時に、当時の健二はとても性欲旺盛だった。
最初は香澄が彼女になったのだから、いつかセックスできると思ってずっと我慢していた。
だというのに、香澄は子供かと思うほど健康的なデートをしたがり、精神的についていけない。
男友達に誘われて合コンに行く時、最初は少し「香澄に悪いな」と思っていた。
だが合コンで会った女の子たちは、全員健二の求めるノリを持っていた。
一緒に騒いで楽しく、ボディタッチしても笑って許してくれる。ノリでキスをしてくれ、肩を組んだら身を寄せてくれる。求めたらラブホにも行ってくれる。
香澄にそんな事を求めれば、「え……」と真顔で引き、よそよそしく距離を取られてしまう。
けれど合コンで出会った彼女たちに本気にならないのは、遊びだと決めているからだ。
健二だって馬鹿ではないので、結婚するなら香澄のようなタイプが一番いいと分かっている。
そのために彼女に目を付け、少しずつ育てていくつもりだった。
だが思うようにいかず、相変わらず彼女は「麻衣、麻衣」ばかり。
香澄は精神的に幼いのだ。
手を出そうとしても距離が縮まらず、映画館デートで少し触ろうとしたら、非常識といわんばかりに注意された。
――俺よりあのデブの方がいいのかよ!
カッとなって本音を漏らしたら、今までにない激しい怒りをくらった。
喧嘩らしい喧嘩はしてこなったが、そこまで香澄が激しい感情を露わにしたのは初めてだった。
結果的に、自分は香澄の親友より〝下〟なのだと思い知り、このまま付き合っている意味があるのか悩み始めた。
だが、せっかく捕まえた〝原石〟を逃すのは惜しい。
何とか引き留め続け、それでも香澄の中身は変わらず、大学二年生の秋に我慢がきかなくなってしまった。
その当時はもう車を乗り回していたので、香澄を車に乗せてしまえばこっちのものだと思っていた。
香澄は酷く怯えていたように思えたけれど、健二だってずっと我慢し続けていた。
『お前、一生処女のまんまのつもりかよ』
抵抗する香澄に怒鳴りつけると、彼女は目をまん丸に見開いて震えた。
『どうせいつか処女じゃなくなるんだ。初めての彼氏と初体験したなら、思い出になるだろ』
ようやく香澄とセックスできて満足したが、そのあとの彼女の様子がおかしいというのは、人に言われるまで気付かなかった。
一回目のハードルが高かったようで、二回目からは誘えば素直に応じてくれた。
という事は、香澄も嫌じゃなかったと考えられる。
(なんだ、意外と行動に移してみれば、何てことなかったじゃないか)
そう思っていた時、覇気のない香澄から『もう無理。別れよう』と言われたのだ。
ハッキリ言って、何が何だか分からない。
丁度その頃は大学二年生から三年生に進級する頃で、ゼミが始まって行動パターンが分かれる時期だった。
香澄に近付こうとすると、岩本麻衣が敵意を露わにしてきて、どうにも近付けない。
どうにも香澄と友人たちの反応を見ると、自分が加害者のように思えてくる。