重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 3
アーリーモーニングティー
佑自身、女性を〝消費〟していた事は否定しない。
だからこそ自分の振る舞いを振り返って苦い思いを抱き、香澄の気持ちと当時自分が付き合った女性の気持ちを重ね、どうにもならない感情にかられた。
〝世界の御劔〟とて、聖人君子ではない。
生まれてこの方、一度もあやまちを犯した事がないなど言わない。
初めて付き合い、恋をした女性が運命の相手で、その人に童貞を捧げるなど、ほぼあり得ないと思っている。
世の中には幼馴染みと結婚したという夫婦も多くいるが、佑は不運というべきか、気やすく話す相手が必ず自分を好きになる呪いにかかっていた。
モテて嬉しいなど言えるレベルではない。
好意を向けられれば、それだけ負の感情も向けられる。
安易に恋をする事を避け続けた結果、歪んだ恋愛観を持った男ができあがってしまった。
そして当たり前に欠点がある一人の男として、佑はどうしても香澄を傷付けた健二を許せなかった。
(俺なんかに比べたら、香澄のほうがずっと綺麗だ)
そっと、隣で眠る香澄の髪を撫でる。
まっすぐで癖のない髪は、まるで彼女自身を表しているようだ。
澄んだ瞳で背筋を伸ばしている姿を見ると、佑が自分を「汚れている」と感じるほど、彼女を遠く感じる。
(汚れ役なら幾らでもやってやる。もうすでにこれ以上ないぐらい汚れている。好きな女の名誉を守るために、クズを排除するぐらい何でもない)
自分がこれから健二に対してしようと思っている事に、何の罪悪感も抱かない。
だが香澄が受けた心の傷と、明日目覚めてからの彼女の反応を考えると、胸が痛くて堪らなかった。
「……絶対に俺が守るから」
人を傷付けてなお、自分が愛する者だけは守ろうとする自分を、なんと利己的なのかと思う。
「……誰に何を言われてもいい。大切なのは香澄と、家族と、友達だけだ」
誰かによく見られたいという欲は、とうの昔に捨てた。
会社のためのクリーンなイメージさえ守れるのなら、裏でどれだけの金、力を使ってでも目的を果たす。
脳裏で原西健二の顔を思い浮かべ、――佑は暗闇に向けて目を細め、息をつく。
それから香澄のスマホにGPSアプリをインストールしたあと、必要な設定をしてから彼女の枕元に戻した。
もう一度香澄の頭を撫で、胸の中で渦巻いた感情を少しずつ解放しながら、枕元の照明を落とした。
**
目が覚めて、香澄はしばしぼんやりと天井を見上げる。
(佑さんの寝室だ)
いつもキングサイズベッドのドアに近い方に寝ているので、無意識に手を左側に動かし、ベッドサイドに置いているスマホを確認する。
(……七時半)
やや寝過ぎた感はあるが、スッキリ目覚められた。
「おはよ」
――と、体にスルリと腕がまわり、耳元で艶やかな低音で朝の挨拶をされる。
「ひゃっ」
肩を跳ねさせ感じた香澄を見て、声の主――佑はクツクツと喉で笑った。
「ん」
香澄を仰向けにした佑は、上から覆い被さるようにキスをする。
「気分はどう?」
朝一番に美しいヘーゼルの瞳を見られるのが、なんとも贅沢だ。
「とってもいい気分」
微笑む香澄に、佑はもう一度キスをしてベッドを下りる。
「香澄、アーリーモーニングティーって知ってる?」
「……ん? 何か聞いたような……。ベッドで飲む紅茶だっけ?」
飲食業界で働く前、一通りコーヒーや紅茶、カクテルやワインなど、興味を持った物の資料的な本を買い、読んだ時期があった。
すべて身についたかと言われると疑問だが、日本にはない少し変わった習慣などは知識として得られたつもりだ。
「俺は少し前に目が覚めたんだけど、一度起きて下で色々用意した。このままベッドで朝食をとらないか? たまにはいいと思うんだ」
「優雅で素敵だけど、零したら大変そう……」
「大丈夫、汚したら寝具を変えればいいよ」
爽やかに言って「決まり」と笑った佑は、「そのままベッドにいて」と言って寝室にあるベッドシドテーブルをセットし、出て行った。
(優雅だな……。そしてこんな事をしてくれるの、ありがたい)
ひとまず寝室裏にある洗面所に行って、用足しをし顔を洗ってからまたベッドに戻った。
洗面所で鏡を見た時、昨日居酒屋の手洗いで吐いてしまった事を思い出した。
まだ少し喉が焼けたような感覚があり、寝室にある冷蔵庫から水を拝借して飲む事にする。
(健二くん、置いて帰って来ちゃったけど、あのあとどうしたんだろう)
怖くて堪らないが、スマホを立ち上げてコネクターナウを開いた。
健二とのトークルームに何件か通知が入っていたが、見るのも嫌になって溜め息をつく。
(ブロックしたい。……でも、急にブロックしたら失礼じゃないだろうか)
こういう時、香澄は非情になりきれない。
相手が自分を害した存在でも、気遣ってしまう。
昔からこういうところはあって、麻衣には「香澄は人からよく思われたいっていう感情が強いよね」と言われ、納得した。
良くも悪くも八方美人で、嫌な人に対してもニコニコしているから、舐められるのだ。
(ノーが言えない日本人……か)
日本人と大きなくくりで言っても、自分よりずっとハッキリ意思表示をする人は大勢いる。
日本人の四割は〝優柔不断で神経質なA型〟と言われているが、人の性格をざっくりと四パターンに分けて考えてしまうのも、いかがなものかと思う。
(それに、血液型の性格診断があるのは、アジア圏の文化なんだっけ)
テレビを見ていて誰かが言っていたのを思いだし、「あまり信じすぎても駄目だな」と自分に言い聞かせる。
(結局は、私の問題なんだ。私がどうしたいのか、考えないと)
そう思うものの、自分一人だとネガティブな思いが渦巻いてしまって、なかなか前に進めない時もある。
溜め息をついた時、ワゴンを押した佑が廊下をやってくる気配がした。
「おまたせ」
佑はベッドサイトテーブルの上に食器などを置いていく。
ベッドサイドテーブルはキングサイズベッドにも対応する幅があり、普段は寝室の壁際に避けられてある。
バスケットには何種類もパンが入っていて、湯気を立てたスープは零れないようにマグカップに入れられてあった。
スクランブルエッグ、カリカリベーコンにハーブの入ったウィンナー、サラダがのったプレートも置かれ、おしぼりもある。
何気ないおしぼり受けは、シンプルながら二つセットで一万円近くする代物らしく、最初に触る時に震えたのを思い出す。
もちろん佑は一つ一つ、何が幾らしたなど言う人ではない。
逆に香澄が気にしてしまって、つい手元が狂ってしまった時などに気にして聞いてみれば……というパターンが多い。
御劔邸の中にはもちろんあちこちにティッシュの箱などもあるのだが、それらのケースなども、部屋のイメージに合わせて金箔を使った和風の物から、シンプルな木製、または大理石、革製、金属……など気を遣われている。
そして勿論、ティッシュケース一つで万単位の品物だ。
そんな家なので、壁際にある絵画が幾らするかなど考えたくもなく、香澄は極力壁際に近寄らずに生活していた。
因みにこの寝室には、大きなテレビが置いてある空間にジョン・アルクールをはじめ、大小さまざまなフレグランスキャンドルが置かれていて、見るだけでもお洒落だ。
「ありがとう」
すべてセットし終わり、肝心の紅茶用のお湯はコードレスのIHコンロの上で保温されていて、そこからガラスのティーポットに注がれて茶葉が開いていく。
「優雅ぁ」
思わず声を上げ小さく拍手をすると、佑は芝居がかった様子で一礼してみせた。
彼もベッドに入り、枕やクッションを整えて座り心地をよくする。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます」
二人で手を合わせ、ナプキンを膝の上に置く。
まず温かなスープを一口飲んでから、彼が早朝に買って来てくれた近所のパン屋のクロワッサンを手に取った。
「おいし」
なるべく皿の上でクロワッサンをちぎり、口の中に押し込む。
ふんわりとしたバターの香りと、サクサクの皮の食感が堪らなく好きだ。
佑はフェリシアに命令し、丁度いいボリュームでクラシック音楽をランダムで再生させた。
二人ともあまり会話をせず、「美味しいね」程度の感想を言いながら食事を進めていった。
満腹になってミルクティーを飲んでいる香澄の右手を、佑が握ってくる。
だからこそ自分の振る舞いを振り返って苦い思いを抱き、香澄の気持ちと当時自分が付き合った女性の気持ちを重ね、どうにもならない感情にかられた。
〝世界の御劔〟とて、聖人君子ではない。
生まれてこの方、一度もあやまちを犯した事がないなど言わない。
初めて付き合い、恋をした女性が運命の相手で、その人に童貞を捧げるなど、ほぼあり得ないと思っている。
世の中には幼馴染みと結婚したという夫婦も多くいるが、佑は不運というべきか、気やすく話す相手が必ず自分を好きになる呪いにかかっていた。
モテて嬉しいなど言えるレベルではない。
好意を向けられれば、それだけ負の感情も向けられる。
安易に恋をする事を避け続けた結果、歪んだ恋愛観を持った男ができあがってしまった。
そして当たり前に欠点がある一人の男として、佑はどうしても香澄を傷付けた健二を許せなかった。
(俺なんかに比べたら、香澄のほうがずっと綺麗だ)
そっと、隣で眠る香澄の髪を撫でる。
まっすぐで癖のない髪は、まるで彼女自身を表しているようだ。
澄んだ瞳で背筋を伸ばしている姿を見ると、佑が自分を「汚れている」と感じるほど、彼女を遠く感じる。
(汚れ役なら幾らでもやってやる。もうすでにこれ以上ないぐらい汚れている。好きな女の名誉を守るために、クズを排除するぐらい何でもない)
自分がこれから健二に対してしようと思っている事に、何の罪悪感も抱かない。
だが香澄が受けた心の傷と、明日目覚めてからの彼女の反応を考えると、胸が痛くて堪らなかった。
「……絶対に俺が守るから」
人を傷付けてなお、自分が愛する者だけは守ろうとする自分を、なんと利己的なのかと思う。
「……誰に何を言われてもいい。大切なのは香澄と、家族と、友達だけだ」
誰かによく見られたいという欲は、とうの昔に捨てた。
会社のためのクリーンなイメージさえ守れるのなら、裏でどれだけの金、力を使ってでも目的を果たす。
脳裏で原西健二の顔を思い浮かべ、――佑は暗闇に向けて目を細め、息をつく。
それから香澄のスマホにGPSアプリをインストールしたあと、必要な設定をしてから彼女の枕元に戻した。
もう一度香澄の頭を撫で、胸の中で渦巻いた感情を少しずつ解放しながら、枕元の照明を落とした。
**
目が覚めて、香澄はしばしぼんやりと天井を見上げる。
(佑さんの寝室だ)
いつもキングサイズベッドのドアに近い方に寝ているので、無意識に手を左側に動かし、ベッドサイドに置いているスマホを確認する。
(……七時半)
やや寝過ぎた感はあるが、スッキリ目覚められた。
「おはよ」
――と、体にスルリと腕がまわり、耳元で艶やかな低音で朝の挨拶をされる。
「ひゃっ」
肩を跳ねさせ感じた香澄を見て、声の主――佑はクツクツと喉で笑った。
「ん」
香澄を仰向けにした佑は、上から覆い被さるようにキスをする。
「気分はどう?」
朝一番に美しいヘーゼルの瞳を見られるのが、なんとも贅沢だ。
「とってもいい気分」
微笑む香澄に、佑はもう一度キスをしてベッドを下りる。
「香澄、アーリーモーニングティーって知ってる?」
「……ん? 何か聞いたような……。ベッドで飲む紅茶だっけ?」
飲食業界で働く前、一通りコーヒーや紅茶、カクテルやワインなど、興味を持った物の資料的な本を買い、読んだ時期があった。
すべて身についたかと言われると疑問だが、日本にはない少し変わった習慣などは知識として得られたつもりだ。
「俺は少し前に目が覚めたんだけど、一度起きて下で色々用意した。このままベッドで朝食をとらないか? たまにはいいと思うんだ」
「優雅で素敵だけど、零したら大変そう……」
「大丈夫、汚したら寝具を変えればいいよ」
爽やかに言って「決まり」と笑った佑は、「そのままベッドにいて」と言って寝室にあるベッドシドテーブルをセットし、出て行った。
(優雅だな……。そしてこんな事をしてくれるの、ありがたい)
ひとまず寝室裏にある洗面所に行って、用足しをし顔を洗ってからまたベッドに戻った。
洗面所で鏡を見た時、昨日居酒屋の手洗いで吐いてしまった事を思い出した。
まだ少し喉が焼けたような感覚があり、寝室にある冷蔵庫から水を拝借して飲む事にする。
(健二くん、置いて帰って来ちゃったけど、あのあとどうしたんだろう)
怖くて堪らないが、スマホを立ち上げてコネクターナウを開いた。
健二とのトークルームに何件か通知が入っていたが、見るのも嫌になって溜め息をつく。
(ブロックしたい。……でも、急にブロックしたら失礼じゃないだろうか)
こういう時、香澄は非情になりきれない。
相手が自分を害した存在でも、気遣ってしまう。
昔からこういうところはあって、麻衣には「香澄は人からよく思われたいっていう感情が強いよね」と言われ、納得した。
良くも悪くも八方美人で、嫌な人に対してもニコニコしているから、舐められるのだ。
(ノーが言えない日本人……か)
日本人と大きなくくりで言っても、自分よりずっとハッキリ意思表示をする人は大勢いる。
日本人の四割は〝優柔不断で神経質なA型〟と言われているが、人の性格をざっくりと四パターンに分けて考えてしまうのも、いかがなものかと思う。
(それに、血液型の性格診断があるのは、アジア圏の文化なんだっけ)
テレビを見ていて誰かが言っていたのを思いだし、「あまり信じすぎても駄目だな」と自分に言い聞かせる。
(結局は、私の問題なんだ。私がどうしたいのか、考えないと)
そう思うものの、自分一人だとネガティブな思いが渦巻いてしまって、なかなか前に進めない時もある。
溜め息をついた時、ワゴンを押した佑が廊下をやってくる気配がした。
「おまたせ」
佑はベッドサイトテーブルの上に食器などを置いていく。
ベッドサイドテーブルはキングサイズベッドにも対応する幅があり、普段は寝室の壁際に避けられてある。
バスケットには何種類もパンが入っていて、湯気を立てたスープは零れないようにマグカップに入れられてあった。
スクランブルエッグ、カリカリベーコンにハーブの入ったウィンナー、サラダがのったプレートも置かれ、おしぼりもある。
何気ないおしぼり受けは、シンプルながら二つセットで一万円近くする代物らしく、最初に触る時に震えたのを思い出す。
もちろん佑は一つ一つ、何が幾らしたなど言う人ではない。
逆に香澄が気にしてしまって、つい手元が狂ってしまった時などに気にして聞いてみれば……というパターンが多い。
御劔邸の中にはもちろんあちこちにティッシュの箱などもあるのだが、それらのケースなども、部屋のイメージに合わせて金箔を使った和風の物から、シンプルな木製、または大理石、革製、金属……など気を遣われている。
そして勿論、ティッシュケース一つで万単位の品物だ。
そんな家なので、壁際にある絵画が幾らするかなど考えたくもなく、香澄は極力壁際に近寄らずに生活していた。
因みにこの寝室には、大きなテレビが置いてある空間にジョン・アルクールをはじめ、大小さまざまなフレグランスキャンドルが置かれていて、見るだけでもお洒落だ。
「ありがとう」
すべてセットし終わり、肝心の紅茶用のお湯はコードレスのIHコンロの上で保温されていて、そこからガラスのティーポットに注がれて茶葉が開いていく。
「優雅ぁ」
思わず声を上げ小さく拍手をすると、佑は芝居がかった様子で一礼してみせた。
彼もベッドに入り、枕やクッションを整えて座り心地をよくする。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます」
二人で手を合わせ、ナプキンを膝の上に置く。
まず温かなスープを一口飲んでから、彼が早朝に買って来てくれた近所のパン屋のクロワッサンを手に取った。
「おいし」
なるべく皿の上でクロワッサンをちぎり、口の中に押し込む。
ふんわりとしたバターの香りと、サクサクの皮の食感が堪らなく好きだ。
佑はフェリシアに命令し、丁度いいボリュームでクラシック音楽をランダムで再生させた。
二人ともあまり会話をせず、「美味しいね」程度の感想を言いながら食事を進めていった。
満腹になってミルクティーを飲んでいる香澄の右手を、佑が握ってくる。