重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 3
ホワイト企業の恋人
「……あのね、佑さん」
「ん?」
「昨日は、話を聞いてくれてありがとう。私の弱さを受け入れてくれて、ありがとう」
色々悩んでいた気持ちはあったが、まず佑に礼を言わなければと思った。
「……うん。もう大丈夫か? ……いや、大丈夫にはならないだろうけど」
佑が頭を撫でてきてくれたので、香澄は目を細めて彼に身を寄せる。
「佑さんがいるから、大丈夫」
温かな彼の肩に顔を押しつけ、静かに息をつく。
「昨日、電話をもらって佑さんの声を聞いて、凄く安心したんだ」
「ん……」
香澄はティーカップをテーブルに置き、両手で佑に抱きつく。
「……ねぇ、健二くんの連絡先とか、急にブロックしたら失礼かな?」
「すればいいよ。もう連絡を取りたくないのなら、すればいい。無理に付き合って香澄の傷を広げる事はない」
佑はいつも、明朗な答えをくれる。
「……うん、そうする。本当は、急にブロックしたらどう思われるか心配とかして、麻衣に『周りを気にしすぎ』って言われたのを思い出してたの」
「気持ちは分かる。でも、香澄はそうやって今まで、望まない事に我慢をし続けたんじゃないかって、俺は思う。その結果ストレスを抱えて、体も心も壊してしまったのなら、意味がないよ。香澄以上に香澄を大事にできる人はいないんだから」
「……うん」
迷った時、彼はいつも正しい道しるべをくれる。
札幌では麻衣がそうだったが、今は佑が同じ役目を果たしてくれている。
香澄の味方というのが絶対条件で、その上で傷付ける言葉を使わず、忌憚なく意見を言ってくれる人というのは、とても貴重だ。
「じゃあ、ブロックしちゃお」
わざと軽い口調で言い、香澄は少し手順を迷いながら健二をブロックする。
何せSNSで人をブロックした事などほぼないので、やり方に慣れていない。
「ちょっと安心しちゃった」
笑いかけると、佑が頬にキスをしてきた。
「健二さんに言いたい事はある?」
尋ねられ、香澄は少し考えてから口を開く。
「過去の事はもうどれだけ悩んでも後悔しても、覆る訳じゃない。だから今の私にもう関わらないでほしい……って言いたいかな。『どうして』って言われたら、やっぱり過去の事で傷ついていたからって、少しは伝えたいけど……もういいや。健二くんがこうやって普通に誘ってくるっていう事は、悪い事をしたっていう意識がなかったんだと思う。お互いの意見が食い違っているのに、『私はこう感じていたんだよ』って説明して理解してもらうのが面倒臭い」
本当にその通りで、悪いと思っていない相手に自分がどれだけ被害を受けたのか、傷ついているのかを説明するのは、何よりも難しい。
一番いいのは、距離を取って関わらず考えず、自分が幸せになる事を考えるだけだ。
「いつか俺が彼に会う事があったら、伝えておくよ」
「そんな、佑さんに言わせられないよ。直接は会っていないんだし、そこまでする事はないと思う」
「そうか? でも会社近くのコーヒーショップで会ったんだろう? またいつ鉢合わせるか分からない。昼休みにも久住たちをつけるから、何かあったら彼らを頼ればいい」
「ん……。気持ちはありがたいけど、会社の昼休みにちょっと外出する程度なのに、護衛をつけていられないよ」
そう言うと、香澄が遠慮しているのに強引にしたくないと思ってくれたのか、佑はそれ以上護衛について口にする事はなかった。
「彼にもし会ったら、話さずすぐ逃げる事。いいね?」
「分かった」
香澄はスマホを置き、佑に抱きついた。
「……不思議だね。あれだけ絶望してたのに、佑さんと話して一晩経ったら、こんなに穏やかな気持ちになってる」
「愚痴って人に聞いてもらうからスッキリするだろう? 痛みもつらさも、人とシェアして共感してもらうから半減するのだと思う。勿論、喜びや楽しみとかのプラスの感情も、誰かと一緒だと倍以上になる。美味い飯も、香澄と一緒に食べるようになって、今まで以上に美味く感じてる」
「ふふ。とっておきの調味料だね。何か、分かるそれ。一人暮らしの時、自炊で好きな物を作ったりしてるけど、麻衣と一緒に囲むお鍋とか、一緒に居酒屋で食べるほうがずっと美味しいんだよね」
親友の顔を思い出して微笑むと、佑が香澄の尻をポンと叩いてきた。
「香澄は麻衣さんばっかりだな。そこに俺も入れてくれ」
「ふふ、勿論入ってますよ」
同性の親友にすら妬く佑が愛しくて、香澄は歯を見せて笑う。
「……ありがとう。自分の傷を思いだしちゃったけど、佑さんがいてくれるなら、これからも頑張っていける」
「良かった」
頭にキスをされ、心が温かくなる。
今回健二に会い、つらい事もあったが、逆の事もあったと伝えようと思った。
「……あのね。今まで佑さんに対してどっちつかずの態度を取っていたと思うの」
「……ん」
話題が自分の事になったからか、佑は聞いてくれる姿勢をとる。
「どれだけ佑さんが私を『好き』って言ってくれても、信じられなくて、釣り合いが取れないって思って、踏ん切りがつかなかった。一度は覚悟を決めたけど、不安がゼロになった訳じゃないの」
「……うん」
「でもね、……昨日あれだけボロボロになった時に、……私、『佑さんが好き。佑さん以上にいい男はいない』って思っちゃったの」
自嘲気味に言う香澄を、佑がきつく抱き締めてきた。
「ごめんね。自分一人だと気持ちを確認する勇気すらないのに、比べる相手がいて、やっと『好きだ』って思えたの。……私、最低だ……」
切なく笑う香澄の背中を、佑はトントンと叩いてあやしてくれる。
「それでいいんじゃないか? 仕事に置き換えると、香澄はブラック企業しか知らなかったんだ。残業が当たり前で薄給、上司や同僚のモラハラ、パワハラ、セクハラあり。それでも、香澄はそこで懸命に頑張ろうとしていた」
健二がブラック企業だと言われて、あまりにピッタリで少し笑ってしまった。
「やっとブラック企業を辞められて、香澄は休養していた。そこでホワイト企業から声が掛かって働き始めても、果たしてこれを受け入れていいのか、騙されていないか、異常なのでは……と疑ってしまう。それは当たり前の感覚だと思うんだ」
「……うん」
健二がブラック企業だとして、佑はこの上ないホワイト企業だ。
〝良い〟からいいのではなく、〝良すぎて〟疑ってしまう気持ちというのは、悲しいかな人間なので持ってしまう。
「香澄は今ようやく、自分がブラック企業にいたと理解できた。気づけないぐらい、今まで心を壊されていたんだ。ホワイト企業にはすぐ慣れづらいと思う。何度でも、現実を疑うだろう。でもそのたびに、俺は何回でも香澄に『好きだ』って言うからな? 『求めたら悪い』なんて思わなくていい。安心するための確認なら、どれだけしてもいいんだ」
(……優しいな……)
思わずジワリと目に涙が浮かび、香澄は誤魔化すように彼の胸板に顔を埋める。
「とってもいい飼い主に拾ってもらった、捨て猫みたい」
顔を上げ、あえて明るく言うと、彼はキョトンとしたあとに破顔した。
「それは、これ以上なく可愛がるしかないじゃないか。猫は飼うと人間が奴隷になるっていうから、……いいかもしれないな……」
「やだ、何考えてるの」
思わず笑った香澄に、佑はチュッとキスをして一緒に笑う。
「話は戻るけど、ホワイト企業に永久就職していいからな」
昔からある結婚の比喩表現を出され、香澄は頬を染めながら彼に抱きついた。
**
週明けからの仕事は、佑が気を遣って休養を提案してくれたが、香澄は問題ないと言って通常通り働いた。
あの広い家に一人でいても、グルグルとネガティブに考えてしまうのは目に見えている。
斎藤が話し相手になってくれるとしても、彼女に昔の事まで話して愚痴を言うのも申し訳ない。
斎藤はあくまで料理主体の家政婦であって、香澄の世話係ではないからだ。
それに、「きちんとしないと」と気を張って仕事に身を入れていると、嫌な事も忘れられる気がする。
健康的に朝起きて出勤して、美味しく食事をして成瀬たちと話をし、帰宅して熱い風呂に入る。
ごく当たり前の事だけれど、それを繰り返すうちに大抵の事は忘れられる気がした。
何より、佑というパーフェクトな恋人がいるので、側にいるだけで幸せになれる。
話したら自分にだだ甘で、すぐに褒めてくれる。
求めたら甘い言葉を言い、愛してくれる。
「ん……」
ベッドの中、佑にキスをされながら香澄は自己肯定感が少しずつ上がっていくのを感じていた。
唇を吸い、吸われる。
舌を絡めて、口腔を探られ、頭も背中も、優しく撫でられる。
健二としても「キスってあんまり好きじゃない」と思っていたのに、佑とはキスをしているだけでどんどん幸せになってくる。
「……好き」
胸の中を甘い気持ちで満たされ、香澄は幸せいっぱいに微笑む。
「俺も大好きだよ」
唇を愛するようなキスをされ、タップパンツごしにお尻を揉まれる。
「ん?」
「昨日は、話を聞いてくれてありがとう。私の弱さを受け入れてくれて、ありがとう」
色々悩んでいた気持ちはあったが、まず佑に礼を言わなければと思った。
「……うん。もう大丈夫か? ……いや、大丈夫にはならないだろうけど」
佑が頭を撫でてきてくれたので、香澄は目を細めて彼に身を寄せる。
「佑さんがいるから、大丈夫」
温かな彼の肩に顔を押しつけ、静かに息をつく。
「昨日、電話をもらって佑さんの声を聞いて、凄く安心したんだ」
「ん……」
香澄はティーカップをテーブルに置き、両手で佑に抱きつく。
「……ねぇ、健二くんの連絡先とか、急にブロックしたら失礼かな?」
「すればいいよ。もう連絡を取りたくないのなら、すればいい。無理に付き合って香澄の傷を広げる事はない」
佑はいつも、明朗な答えをくれる。
「……うん、そうする。本当は、急にブロックしたらどう思われるか心配とかして、麻衣に『周りを気にしすぎ』って言われたのを思い出してたの」
「気持ちは分かる。でも、香澄はそうやって今まで、望まない事に我慢をし続けたんじゃないかって、俺は思う。その結果ストレスを抱えて、体も心も壊してしまったのなら、意味がないよ。香澄以上に香澄を大事にできる人はいないんだから」
「……うん」
迷った時、彼はいつも正しい道しるべをくれる。
札幌では麻衣がそうだったが、今は佑が同じ役目を果たしてくれている。
香澄の味方というのが絶対条件で、その上で傷付ける言葉を使わず、忌憚なく意見を言ってくれる人というのは、とても貴重だ。
「じゃあ、ブロックしちゃお」
わざと軽い口調で言い、香澄は少し手順を迷いながら健二をブロックする。
何せSNSで人をブロックした事などほぼないので、やり方に慣れていない。
「ちょっと安心しちゃった」
笑いかけると、佑が頬にキスをしてきた。
「健二さんに言いたい事はある?」
尋ねられ、香澄は少し考えてから口を開く。
「過去の事はもうどれだけ悩んでも後悔しても、覆る訳じゃない。だから今の私にもう関わらないでほしい……って言いたいかな。『どうして』って言われたら、やっぱり過去の事で傷ついていたからって、少しは伝えたいけど……もういいや。健二くんがこうやって普通に誘ってくるっていう事は、悪い事をしたっていう意識がなかったんだと思う。お互いの意見が食い違っているのに、『私はこう感じていたんだよ』って説明して理解してもらうのが面倒臭い」
本当にその通りで、悪いと思っていない相手に自分がどれだけ被害を受けたのか、傷ついているのかを説明するのは、何よりも難しい。
一番いいのは、距離を取って関わらず考えず、自分が幸せになる事を考えるだけだ。
「いつか俺が彼に会う事があったら、伝えておくよ」
「そんな、佑さんに言わせられないよ。直接は会っていないんだし、そこまでする事はないと思う」
「そうか? でも会社近くのコーヒーショップで会ったんだろう? またいつ鉢合わせるか分からない。昼休みにも久住たちをつけるから、何かあったら彼らを頼ればいい」
「ん……。気持ちはありがたいけど、会社の昼休みにちょっと外出する程度なのに、護衛をつけていられないよ」
そう言うと、香澄が遠慮しているのに強引にしたくないと思ってくれたのか、佑はそれ以上護衛について口にする事はなかった。
「彼にもし会ったら、話さずすぐ逃げる事。いいね?」
「分かった」
香澄はスマホを置き、佑に抱きついた。
「……不思議だね。あれだけ絶望してたのに、佑さんと話して一晩経ったら、こんなに穏やかな気持ちになってる」
「愚痴って人に聞いてもらうからスッキリするだろう? 痛みもつらさも、人とシェアして共感してもらうから半減するのだと思う。勿論、喜びや楽しみとかのプラスの感情も、誰かと一緒だと倍以上になる。美味い飯も、香澄と一緒に食べるようになって、今まで以上に美味く感じてる」
「ふふ。とっておきの調味料だね。何か、分かるそれ。一人暮らしの時、自炊で好きな物を作ったりしてるけど、麻衣と一緒に囲むお鍋とか、一緒に居酒屋で食べるほうがずっと美味しいんだよね」
親友の顔を思い出して微笑むと、佑が香澄の尻をポンと叩いてきた。
「香澄は麻衣さんばっかりだな。そこに俺も入れてくれ」
「ふふ、勿論入ってますよ」
同性の親友にすら妬く佑が愛しくて、香澄は歯を見せて笑う。
「……ありがとう。自分の傷を思いだしちゃったけど、佑さんがいてくれるなら、これからも頑張っていける」
「良かった」
頭にキスをされ、心が温かくなる。
今回健二に会い、つらい事もあったが、逆の事もあったと伝えようと思った。
「……あのね。今まで佑さんに対してどっちつかずの態度を取っていたと思うの」
「……ん」
話題が自分の事になったからか、佑は聞いてくれる姿勢をとる。
「どれだけ佑さんが私を『好き』って言ってくれても、信じられなくて、釣り合いが取れないって思って、踏ん切りがつかなかった。一度は覚悟を決めたけど、不安がゼロになった訳じゃないの」
「……うん」
「でもね、……昨日あれだけボロボロになった時に、……私、『佑さんが好き。佑さん以上にいい男はいない』って思っちゃったの」
自嘲気味に言う香澄を、佑がきつく抱き締めてきた。
「ごめんね。自分一人だと気持ちを確認する勇気すらないのに、比べる相手がいて、やっと『好きだ』って思えたの。……私、最低だ……」
切なく笑う香澄の背中を、佑はトントンと叩いてあやしてくれる。
「それでいいんじゃないか? 仕事に置き換えると、香澄はブラック企業しか知らなかったんだ。残業が当たり前で薄給、上司や同僚のモラハラ、パワハラ、セクハラあり。それでも、香澄はそこで懸命に頑張ろうとしていた」
健二がブラック企業だと言われて、あまりにピッタリで少し笑ってしまった。
「やっとブラック企業を辞められて、香澄は休養していた。そこでホワイト企業から声が掛かって働き始めても、果たしてこれを受け入れていいのか、騙されていないか、異常なのでは……と疑ってしまう。それは当たり前の感覚だと思うんだ」
「……うん」
健二がブラック企業だとして、佑はこの上ないホワイト企業だ。
〝良い〟からいいのではなく、〝良すぎて〟疑ってしまう気持ちというのは、悲しいかな人間なので持ってしまう。
「香澄は今ようやく、自分がブラック企業にいたと理解できた。気づけないぐらい、今まで心を壊されていたんだ。ホワイト企業にはすぐ慣れづらいと思う。何度でも、現実を疑うだろう。でもそのたびに、俺は何回でも香澄に『好きだ』って言うからな? 『求めたら悪い』なんて思わなくていい。安心するための確認なら、どれだけしてもいいんだ」
(……優しいな……)
思わずジワリと目に涙が浮かび、香澄は誤魔化すように彼の胸板に顔を埋める。
「とってもいい飼い主に拾ってもらった、捨て猫みたい」
顔を上げ、あえて明るく言うと、彼はキョトンとしたあとに破顔した。
「それは、これ以上なく可愛がるしかないじゃないか。猫は飼うと人間が奴隷になるっていうから、……いいかもしれないな……」
「やだ、何考えてるの」
思わず笑った香澄に、佑はチュッとキスをして一緒に笑う。
「話は戻るけど、ホワイト企業に永久就職していいからな」
昔からある結婚の比喩表現を出され、香澄は頬を染めながら彼に抱きついた。
**
週明けからの仕事は、佑が気を遣って休養を提案してくれたが、香澄は問題ないと言って通常通り働いた。
あの広い家に一人でいても、グルグルとネガティブに考えてしまうのは目に見えている。
斎藤が話し相手になってくれるとしても、彼女に昔の事まで話して愚痴を言うのも申し訳ない。
斎藤はあくまで料理主体の家政婦であって、香澄の世話係ではないからだ。
それに、「きちんとしないと」と気を張って仕事に身を入れていると、嫌な事も忘れられる気がする。
健康的に朝起きて出勤して、美味しく食事をして成瀬たちと話をし、帰宅して熱い風呂に入る。
ごく当たり前の事だけれど、それを繰り返すうちに大抵の事は忘れられる気がした。
何より、佑というパーフェクトな恋人がいるので、側にいるだけで幸せになれる。
話したら自分にだだ甘で、すぐに褒めてくれる。
求めたら甘い言葉を言い、愛してくれる。
「ん……」
ベッドの中、佑にキスをされながら香澄は自己肯定感が少しずつ上がっていくのを感じていた。
唇を吸い、吸われる。
舌を絡めて、口腔を探られ、頭も背中も、優しく撫でられる。
健二としても「キスってあんまり好きじゃない」と思っていたのに、佑とはキスをしているだけでどんどん幸せになってくる。
「……好き」
胸の中を甘い気持ちで満たされ、香澄は幸せいっぱいに微笑む。
「俺も大好きだよ」
唇を愛するようなキスをされ、タップパンツごしにお尻を揉まれる。