重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 3

七年越しの……

「……これ、見覚えないか?」

 差し出されたのは、十センチメートル四方ほどのプレゼントだ。
 大角梅坂屋の包装紙に包まれていて、銀色にブルーのリボンがついたシールが貼られてある。

「…………」

 一瞬、香澄はそれが何なのか分からないでいた。
 だが、直後にブワッと七年前の記憶が蘇った。

「……私、健二くんに三時間の待ちぼうけをされた時、クリスマスプレゼントにって思って、紳士服売り場でブランド物のタオルハンカチを買ったの」

 知らずと手が震え、足がすくむ。

 ――そう。

 あの時のプレゼントは、健二から連絡があったあとに駅前で人に押しつけたはずだった。

 十二月の寒空の中、札幌で外に座っている人などまずいない。
 確実に風邪を引く、愚かしい行為だからだ。

「頭を冷やしたくて外に座ってて……。男の人に声を掛けられたの。背の高い男の人だった……」



『……大丈夫?』

『何か温かい物でもご馳走しようか?』



 あの時は気持ちがくさくさしていて、ナンパかと思って取り合わなかった。

 それでも「一応心配してくれたんだし」と思って、行く当てのないプレゼントをあげた――もとい、押しつけたのだった。

「これ…………」

 震える手で香澄はプレゼントを手に取り、無言で包装を剥がした。
 プレゼントはまだ開けられていなかったけれど、しまわれていたとはいえ、七年経っているので多少の色あせなどが確認できた。

「あぁ……」

 包装紙を開くと、中央が透明フィルムになった白い箱の中に、香澄が健二のために選んだ濃紺のタオルハンカチが収まっていた。

「……やっぱり、香澄だったのか」

 佑は苦笑いし、クシャクシャと香澄の頭を撫でてくる。

「なん、……で」

 あり得なくはない。

 けれど、あまりの偶然に香澄は言葉を失っていた。

「あの時、札幌出張だったんだ。札幌にChief Everyの店舗を増やすに当たって下見をして、それから接待を受けていたところだった。一緒に人がいたけれど、離れた所で待っていてもらったから気付かなかったかな」

「……私、佑さんの顔もよく見えてなかった。外で夜だったし、ちょうど逆光で……。若そうな背の高い人っていう認識はあったけど、他はよく覚えてない」

 七年も前に出会いを果たしていたのに、自分は彼に気付いていなかった。
 それがとても勿体なく思えて、悔しさすら覚える。

「うん。俺も、最近になって香澄から当時の事を聞くまで、忘れてたんだ。これを取っておいたのは、当時の香澄があまりに辛そうだったのが印象に残っていた。普通なら、誰かにあげるはずだった物を受け取っても、捨てていたかもしれない。何も気にしないという人は、ラッピングを開けて中身を使っていたかもしれない。……でも俺はどうしても〝あの子〟が気になってしまって、つらい想いを受け止めたつもりでプレゼントを保管していた」

「……なんか、佑さんらしいね。通りすがりの名前も知らない子の気持ちを、受け取るなんて……」

 佑が書斎にあるソファに座ったので、香澄も隣に腰掛ける。

 時々書斎を覗くと、佑はたまにこのソファに寝転んでいる事がある。

 書斎はドアに向き合う形でデスクがあり、その左右の壁には備え付けの本棚があった。
 隅には移動式の梯子もあり、天井まである本棚すべてを活用できるようになっている。
 デスクトップパソコンやモニターなど周辺機器はすべて最新式で、集中できるようテレビはないが、オーディオ機器は充実している。
 椅子の後ろにはソファがあり、疲れた時にすぐ仮眠できるようになっていた。

「んー、受け取ったっていうか……。あんまりにも感じるものがあったからかな。あの時プレゼントを返していたら、〝あの子〟はもっと追い詰められる気がした。だから受け取った。それだけなんだ」

 ありがたく思いつつも、つい笑ってしまう。

「捨てて良かったのに」

「札幌には割と頻繁に行くし、いつか会えるかもしれないだろ? これでも人との縁は大切にしているんだ。さすがに忙しいし目立つから、駅前で偶然の再会を待とうとは思わなかったけど、〝いつか〟の可能性は信じていたんだ。逆光になっていたとは知らなかったし、顔を知られているっていう自惚れもあったから、いつか〝あの子〟からコンタクトがあるかな……なんて事も考えてた」

「もしそうなったら、知らない一般人でも会うつもりだったの?」

「知らない一般人って……。俺もプライベートでは一般人のつもりだし。そんなに大したもんじゃないから、気軽にご飯でもご馳走して話を聞きたいとは思ってたよ。意外と、人の話って勉強になる時もあるし」

「そっか……」

 香澄は脚を揃えて伸ばし、ルームシューズを履いたつま先を見つめる。
 何度か「うん」と頷いたあと、佑のほうを見て「えへへっ」と笑った。

「ありがとね!」

 嬉しくて照れてしまった香澄は、トントンと佑の背中を叩く。

「何か……うーん、報われた気がする。七年前から今まで、このハンカチで繋がってた……っていうのとは違うけど、何か運命を感じる」

 自分で「運命」と言ってしまい、香澄はまた「えへへ」と照れ笑いする。
 そして無駄にトントンと佑の背中を叩いてから、もふっと抱きついた。

「…………ありがと」

「……うん」

 佑も抱き締め返してくれ、お互い抱き締め合う。

「……なんか、元気出ちゃった。あの時の行き場のないプレゼントと想いを、こうやって受け取っていてくれたって思うと……。あの時は気付かなかったけど、今は知る事ができた。……ありがとう!」

「少しでも気持ちが軽くなったなら、良かったよ」

 嬉しくなった香澄は、立ち上がって両手で佑の頬を包むと、「お礼」と言ってそっとキスをした。

「やっぱり、好き」

 照れて頬を真っ赤にしながら、香澄は必死に自分の気持ちを伝えようとする。

 正直、佑から「可愛い」と甘やかされたり、ベッドでいやらしい事を言われているよりも、今のほうがずっと照れている自覚がある。

 それも、嬉しさの籠もった照れだ。
 少し気を緩めるとニヤニヤしてしまいそうで、とっさに横を向いた。

「こら」

「っきゃあっ」

 抱き締められ顔を覗き込まれるので、必死に両手で隠す。

「照れてる香澄、可愛いから見せて」

「やだ」

「見せて」

 手で隠しきれていないこめかみにキスをされ、体に回った手が二の腕の下に潜り込み胸を揉んでくる。

「う……」

「俺の事が好きなら、顔を上げて」

「……ずるい……」

 うめいて、香澄はおずおずと顔から手を離す。

 不意に、毎日すっぴんを見られているというのに、改めて彼に至近距離で顔を見せるとなると、「変じゃないかな」という思いが沸き起こり羞恥が増す。

「照れてるのか? 可愛いな」

 佑はヘーゼルの目を細め、愛しげに微笑んでからキスをしてきた。

「……ん」

 後頭部を優しく押さえられ、唇を何度もついばまれる。
 抱き締められていると、佑の匂いを呼吸の合間に吸い込む事になり、どんどん彼の存在に酩酊していく。

「ぁ……」

 やがて息継ぎのために開かれた唇に、ヌルリと佑の舌が入り込んできた。

 唇の内側をなぞるように舐められ、体温が上がってゆく。
 おずおずと舌を差し出すと、柔らかな舌に絡め取られ、口内で唾液がじゅんと湧いた。

 そのまま舌を絡め合い、時にチュッとしゃぶられる。
 どんどんはしたない気持ちになった香澄は、無意識に腰を揺らしていた。

「は……」

 銀糸を引いて唇が離れ、完全にその気になった佑が熱の籠もった目で見つめてくる。
 何も言われなくても、彼が舌なめずりしたのを見てすべて察してしまった。

 けれど香澄は恥ずかしくて、逆の意味で何も言えなくなる。
 固まっていると、彼の膝の上に乗っていた体勢から一気に抱き上げられた。

「わっ」

 とっさに両腕を佑の首にまわし、しがみつく。

「いい子。そのまましがみついてて」

 軽々と香澄を抱いたまま佑は歩き、すぐにマスターベッドルームに向かう。

「んっ」

 ベッドの上に下ろされたかと思うと、佑がマットレスの上に片膝を乗り上げ、ベストのボタンを外す。
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