重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 3
覚悟を固めていかなきゃ
「赤松さんは?」
「あ、迎えが来るみたいなので待ってます」
答えると、三人がニヤァ……と笑った。
「え? え? 誰が迎えに来るのかな?」
荒野の笑顔が怖い。
「そう言えば、雑談にかまけて赤松さんと社長のハッキリした関係を聞いてなかったけど、どうなのかなぁ?」
水木が肩を組み、香澄の顔を覗き込んでくる。まるで恐喝だ。
「う……、う……」
冷や汗をタラタラ流し、うなる香澄に、反対側から成瀬が囁いてくる。
「さっき、私たちの事は信頼してもいいよーって言ったよね? 私たちは社長を社長以上に見ていないし、赤松さんの味方だよ?」
猫なで声で言われ、香澄は三人の圧に負けて呟いた。
「……け、……結婚を前提に同棲しております……」
三人が同時に「ちょろい」と思ったのは置いておき、「きゃあ~!」と黄色い悲鳴を上げた。
「やっぱり!」
「社長、結婚しないかな~? って思ってたけど、とうとうか!」
「いやぁ、めでたい!」
三人は口々に言い、拍手までしだすので香澄は焦って周囲を見る。
「あの! 本当に秘密でお願いします! というか、まだ恋人関係すらお試し期間みたいな感じなので、焦らずじっくりいきたいという状態でして……」
「うんうん、分かってる。私たちは親愛なる我らが社長に、お相手がいるっていうだけで一安心よ。もう、気分はおかんだよね」
成瀬がカラカラと笑い、水木と荒野も頷く。
「私たちはたまーに、さっきみたいにゴージャスデートの写真を見せてもらったり、どれだけ関係が進展してるか教えてもらえるだけで十分だから!」
水木はにっこり笑い、両手でサムズアップしてくる。
「ウ……ウウ」
香澄はぎこちなく笑う。
佑には屋内で待っているようにと言われたが、四人で話しているうちに車がついたようだ。
「あれっ、社長じゃない?」
車から降りてキョロキョロしている長身の陰を見て、成瀬が声を出す。
「あっ……」
大きな声で「佑さん」と呼ぶのは憚られて、ブンブンと手を振ると彼がこちらに気付く。
あまり長く停車していられなさそうなので、香澄は彼女たちに挨拶をした。
「今日は誘ってくださってありがとうございます! 駅前なので、ゆっくりするのは避けますね」
「OK! また、今度は社長を交えて話そうね」
「はい」
果たして勝手に頷いてしまっていいのか分からないが、香澄は笑顔で承諾し、「それじゃあ」と会釈をして佑の方に歩いて行った。
佑は三人に向けて手を振っている。
後ろから「きゃ~! 社長~!」と声が聞こえるが、彼女たちも気を遣って〝御劔〟の名前は出していないのかもしれない。
「おかえり」
佑は先に香澄を後部座席に乗せ、あとから乗り込む。
「お願いします」
彼が小金井に声を掛けると、車はスッと発進した。
「はぁ……」
三人と過ごした時間は楽しかったが、帰路につくと「帰れる」という安堵が香澄を包む。
何せ金曜日に昼間働き、その帰りに佑以外の人と飲むのは初めてだ。
体力的に大丈夫で、彼女たちは自分に友好的だと分かっていても、多少の気疲れはあったのかもしれない。
「香澄、ここにボタンがあるからフットレストを出せるよ」
「あ、うん」
佑に言われた通りボタンを押すと、乗った事はないが飛行機のファーストクラスのようにシートと同じフカフカのフットレストがせり上がってくる。
「あと、ここはマッサージ機能になってるから、使って。今日は疲れただろ」
「え? マッサージ?」
驚いて言われたボタンを押すと、シートの中に隠れていた揉み玉が動いてマッサージを開始した。
「すごい!!」
「あと、はい。酒飲んだだろ」
加えて佑は足元にある小さな収納から水のペットボトルを出し、渡してきた。
ひんやりしているところを見ると、冷蔵庫も内蔵されているようだ。
「すごい……。スーパーカーだ……」
感心していると、佑が苦笑いする。
「祖父のところの車だ。こういう機能は満載だから、出張の時によく使っている。他の外国車にも大体似た機能があるけど」
「ふぁぁ……」
初めて乗る車なのであちこち見てみると、折りたたみ式のテーブルまである。
前の座席の後ろには液晶モニターがあり、どうやら車内Wi-Fiまで完備しているようだ。
ありがたく水を飲んでいると、佑が尋ねてくる。
「楽しかった?」
「うん、とっても楽しかった。久しぶりに女子会した気がする」
「なら良かった。彼女たちとは上手くやれそう?」
「うん。何か、最初は明るくてノリが良くて『ついていけるかな?』って心配だったけど、思っていた以上に考え方がしっかりした人たちだった。佑さんとの事もちょっと話しちゃったけど、秘密は絶対守るって言ってくれたから……いい? 事後報告でごめんなさい……」
本当に今さらだ。
佑ほどの男性の恋愛話を、本来ならホイホイしていいはずがない。
週刊誌が金を払ってでも知りたがる、大ゴシップで、もしかしたら佑の首を絞める事になるかもしれない情報だ。
「別に構わないよ? 香澄が大丈夫だと思った人なら、俺も信じたい。元より自分の社員だし、彼女たちにはいい印象を抱いていたからね」
「……良かった……」
脱力すると、佑がクスクス笑って頭を撫でてくる。
「そんなに心配しなくていいよ。何も香澄は不倫相手な訳じゃないんだから。正式な恋人なんだから、堂々としていていいんだよ。いずれ時が来たら、正式に婚約したと世間に発表する時もくるだろうし」
「正式に……」
言われて、香澄は脳内であまり見ないワイドショーや、週刊誌の見出しを思い浮かべる。
『人気○○の××さん、一般女性Aさんと婚約』
それはよくある見出しで、人気○○がイケメンだったり美人だったりすると、SNSが荒れて悲嘆に暮れる人が出る始末だ。
(発表になったら、私と佑さんの場合もそういう風になるのかな)
自分の名前が日本中に知れ渡る事を想像し、香澄は微かに怯える。
「……そ、そういうのって、記者会見みたいに皆の前に顔を出して挨拶するの?」
「まさか。香澄は芸能人じゃないから、顔を出す必要はないよ。メディアに出る事を生業にする人は、顔を出してなんぼだけど、一般人が顔出しするのはリスクしかない。普通にSNSを使って自撮り写真を投稿する行為だって、俺から見ればリスク行為だし」
「じゃあ、どうやって〝発表〟するの?」
「ん? 単に発表文を各社に出すだけだよ。それもしたくないなら、誰にも何も言わずに婚約、結婚するのも可能だけど……。俺は既婚者になったと発表……は、したいかな」
佑の希望を聞き、香澄は「そうか……」と納得する。
「佑さん、モテモテだもんね。結婚発表して〝既婚者〟にならないと、周りが放っておかないもんね」
現時点で佑に想いを寄せている女性と言えば、百合恵と飯山たちぐらいしか知らない。
だが香澄が知らないだけで、芸能界や昔の女関係、世間のファンなども大勢いるのだろう。
「……ごめん。それは否定しない。煩わしさから解放されて、俺は香澄だけのものなんだと主張したい気持ちもある。……これって、香澄を理由に逃げようとしてるのかな?」
はた、と彼が考え込み、香澄も一緒になって考える。
「いや……。いいんじゃないの? 佑さんは少なくとも今、その女性たちの気持ちに応えるつもりはないんでしょう? 佑さんが女性に対して強い言葉を使わない人なのは分かっているし、正式な理由があれば彼女たちも引いてくれるんじゃ……って期待するのは、当たり前の事だと思う」
「ありがとう。我ながら、情けない」
佑は溜め息交じりに笑うが、そんな彼を優しいと思う。
彼のように世の女性が求めるものすべてを持っている〝理想の男性〟なら、女性を好きなようにつまみ食いしても、世の中の人は〝イケメンの特権〟と思うだろう。
彼につきまとうしつこい女性に対し、「遊びだったんだよ」とつれなくする事があっても、ある程度「仕方がない」と思われやすい。
しかし香澄の知る限り、佑は男女問わず誠実であろうとしている。
彼が強く出ない限り、佑を求める存在は調子に乗るかもしれない。
困っている佑が最終的に〝結婚〟と決定的な発表をして、諦めてくれるだろうと期待するのは当たり前だ。
(その時は、私も佑さんの奥さんになるんだっていう、自覚をしなきゃ)
いまだ、結婚する自覚はない。
寝て目が覚める時は、札幌の自分の家にいる気分によくなっている。
まだまだ、自分は東京にも、〝御劔佑の彼女〟にもなりきれていない。
(三月には食事会もあるし、少しずつ覚悟を固めていかなきゃ)
自分自身に言い聞かせ、香澄は目を閉じてマッサージ機の心地よい振動に身を任せた。
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「あ、迎えが来るみたいなので待ってます」
答えると、三人がニヤァ……と笑った。
「え? え? 誰が迎えに来るのかな?」
荒野の笑顔が怖い。
「そう言えば、雑談にかまけて赤松さんと社長のハッキリした関係を聞いてなかったけど、どうなのかなぁ?」
水木が肩を組み、香澄の顔を覗き込んでくる。まるで恐喝だ。
「う……、う……」
冷や汗をタラタラ流し、うなる香澄に、反対側から成瀬が囁いてくる。
「さっき、私たちの事は信頼してもいいよーって言ったよね? 私たちは社長を社長以上に見ていないし、赤松さんの味方だよ?」
猫なで声で言われ、香澄は三人の圧に負けて呟いた。
「……け、……結婚を前提に同棲しております……」
三人が同時に「ちょろい」と思ったのは置いておき、「きゃあ~!」と黄色い悲鳴を上げた。
「やっぱり!」
「社長、結婚しないかな~? って思ってたけど、とうとうか!」
「いやぁ、めでたい!」
三人は口々に言い、拍手までしだすので香澄は焦って周囲を見る。
「あの! 本当に秘密でお願いします! というか、まだ恋人関係すらお試し期間みたいな感じなので、焦らずじっくりいきたいという状態でして……」
「うんうん、分かってる。私たちは親愛なる我らが社長に、お相手がいるっていうだけで一安心よ。もう、気分はおかんだよね」
成瀬がカラカラと笑い、水木と荒野も頷く。
「私たちはたまーに、さっきみたいにゴージャスデートの写真を見せてもらったり、どれだけ関係が進展してるか教えてもらえるだけで十分だから!」
水木はにっこり笑い、両手でサムズアップしてくる。
「ウ……ウウ」
香澄はぎこちなく笑う。
佑には屋内で待っているようにと言われたが、四人で話しているうちに車がついたようだ。
「あれっ、社長じゃない?」
車から降りてキョロキョロしている長身の陰を見て、成瀬が声を出す。
「あっ……」
大きな声で「佑さん」と呼ぶのは憚られて、ブンブンと手を振ると彼がこちらに気付く。
あまり長く停車していられなさそうなので、香澄は彼女たちに挨拶をした。
「今日は誘ってくださってありがとうございます! 駅前なので、ゆっくりするのは避けますね」
「OK! また、今度は社長を交えて話そうね」
「はい」
果たして勝手に頷いてしまっていいのか分からないが、香澄は笑顔で承諾し、「それじゃあ」と会釈をして佑の方に歩いて行った。
佑は三人に向けて手を振っている。
後ろから「きゃ~! 社長~!」と声が聞こえるが、彼女たちも気を遣って〝御劔〟の名前は出していないのかもしれない。
「おかえり」
佑は先に香澄を後部座席に乗せ、あとから乗り込む。
「お願いします」
彼が小金井に声を掛けると、車はスッと発進した。
「はぁ……」
三人と過ごした時間は楽しかったが、帰路につくと「帰れる」という安堵が香澄を包む。
何せ金曜日に昼間働き、その帰りに佑以外の人と飲むのは初めてだ。
体力的に大丈夫で、彼女たちは自分に友好的だと分かっていても、多少の気疲れはあったのかもしれない。
「香澄、ここにボタンがあるからフットレストを出せるよ」
「あ、うん」
佑に言われた通りボタンを押すと、乗った事はないが飛行機のファーストクラスのようにシートと同じフカフカのフットレストがせり上がってくる。
「あと、ここはマッサージ機能になってるから、使って。今日は疲れただろ」
「え? マッサージ?」
驚いて言われたボタンを押すと、シートの中に隠れていた揉み玉が動いてマッサージを開始した。
「すごい!!」
「あと、はい。酒飲んだだろ」
加えて佑は足元にある小さな収納から水のペットボトルを出し、渡してきた。
ひんやりしているところを見ると、冷蔵庫も内蔵されているようだ。
「すごい……。スーパーカーだ……」
感心していると、佑が苦笑いする。
「祖父のところの車だ。こういう機能は満載だから、出張の時によく使っている。他の外国車にも大体似た機能があるけど」
「ふぁぁ……」
初めて乗る車なのであちこち見てみると、折りたたみ式のテーブルまである。
前の座席の後ろには液晶モニターがあり、どうやら車内Wi-Fiまで完備しているようだ。
ありがたく水を飲んでいると、佑が尋ねてくる。
「楽しかった?」
「うん、とっても楽しかった。久しぶりに女子会した気がする」
「なら良かった。彼女たちとは上手くやれそう?」
「うん。何か、最初は明るくてノリが良くて『ついていけるかな?』って心配だったけど、思っていた以上に考え方がしっかりした人たちだった。佑さんとの事もちょっと話しちゃったけど、秘密は絶対守るって言ってくれたから……いい? 事後報告でごめんなさい……」
本当に今さらだ。
佑ほどの男性の恋愛話を、本来ならホイホイしていいはずがない。
週刊誌が金を払ってでも知りたがる、大ゴシップで、もしかしたら佑の首を絞める事になるかもしれない情報だ。
「別に構わないよ? 香澄が大丈夫だと思った人なら、俺も信じたい。元より自分の社員だし、彼女たちにはいい印象を抱いていたからね」
「……良かった……」
脱力すると、佑がクスクス笑って頭を撫でてくる。
「そんなに心配しなくていいよ。何も香澄は不倫相手な訳じゃないんだから。正式な恋人なんだから、堂々としていていいんだよ。いずれ時が来たら、正式に婚約したと世間に発表する時もくるだろうし」
「正式に……」
言われて、香澄は脳内であまり見ないワイドショーや、週刊誌の見出しを思い浮かべる。
『人気○○の××さん、一般女性Aさんと婚約』
それはよくある見出しで、人気○○がイケメンだったり美人だったりすると、SNSが荒れて悲嘆に暮れる人が出る始末だ。
(発表になったら、私と佑さんの場合もそういう風になるのかな)
自分の名前が日本中に知れ渡る事を想像し、香澄は微かに怯える。
「……そ、そういうのって、記者会見みたいに皆の前に顔を出して挨拶するの?」
「まさか。香澄は芸能人じゃないから、顔を出す必要はないよ。メディアに出る事を生業にする人は、顔を出してなんぼだけど、一般人が顔出しするのはリスクしかない。普通にSNSを使って自撮り写真を投稿する行為だって、俺から見ればリスク行為だし」
「じゃあ、どうやって〝発表〟するの?」
「ん? 単に発表文を各社に出すだけだよ。それもしたくないなら、誰にも何も言わずに婚約、結婚するのも可能だけど……。俺は既婚者になったと発表……は、したいかな」
佑の希望を聞き、香澄は「そうか……」と納得する。
「佑さん、モテモテだもんね。結婚発表して〝既婚者〟にならないと、周りが放っておかないもんね」
現時点で佑に想いを寄せている女性と言えば、百合恵と飯山たちぐらいしか知らない。
だが香澄が知らないだけで、芸能界や昔の女関係、世間のファンなども大勢いるのだろう。
「……ごめん。それは否定しない。煩わしさから解放されて、俺は香澄だけのものなんだと主張したい気持ちもある。……これって、香澄を理由に逃げようとしてるのかな?」
はた、と彼が考え込み、香澄も一緒になって考える。
「いや……。いいんじゃないの? 佑さんは少なくとも今、その女性たちの気持ちに応えるつもりはないんでしょう? 佑さんが女性に対して強い言葉を使わない人なのは分かっているし、正式な理由があれば彼女たちも引いてくれるんじゃ……って期待するのは、当たり前の事だと思う」
「ありがとう。我ながら、情けない」
佑は溜め息交じりに笑うが、そんな彼を優しいと思う。
彼のように世の女性が求めるものすべてを持っている〝理想の男性〟なら、女性を好きなようにつまみ食いしても、世の中の人は〝イケメンの特権〟と思うだろう。
彼につきまとうしつこい女性に対し、「遊びだったんだよ」とつれなくする事があっても、ある程度「仕方がない」と思われやすい。
しかし香澄の知る限り、佑は男女問わず誠実であろうとしている。
彼が強く出ない限り、佑を求める存在は調子に乗るかもしれない。
困っている佑が最終的に〝結婚〟と決定的な発表をして、諦めてくれるだろうと期待するのは当たり前だ。
(その時は、私も佑さんの奥さんになるんだっていう、自覚をしなきゃ)
いまだ、結婚する自覚はない。
寝て目が覚める時は、札幌の自分の家にいる気分によくなっている。
まだまだ、自分は東京にも、〝御劔佑の彼女〟にもなりきれていない。
(三月には食事会もあるし、少しずつ覚悟を固めていかなきゃ)
自分自身に言い聞かせ、香澄は目を閉じてマッサージ機の心地よい振動に身を任せた。
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