重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 3
飯山との接触
そのあとの土日は、佑と一緒に都内をデートした。
憧れていた日本の有名アニメスタジオの美術館に行ったあと、近くにある井の頭公園でのんびりと散歩をする。
日曜日は近場という事で、品川にある水族館に行き、ボウリングも少しした。
ボウリングなど本当に久しぶりで、何回も失敗してしまったのだが、佑は上手く投げられるコツを根気よく教えてくれたので、本当に優しいと思う。
彼はと言えばストライクではない時が珍しいほどで、近くのレーンにいたボウリング通らしい男性が、食い入るように見ていた。
楽しい週末デートが終わった後も、香澄は忙しく働きどんどん秘書業になれていく。
本来なら二月の上旬に、佑は行かなければいけない海外出張があったらしいのだが、それは他の人が代理を務めたようだ。
というのも、ここ最近の佑が海外からの対応に忙しそうで、原因はどうやら行かなければならない場所に不参加だったから……という理由らしい。
相手は怒ってはいないものの、非常に残念がっているようだ。
電話の主とは時差もあり、佑は主に夕食後から寝るまでの時間に、沢山の電話を受けていた。
電話は彼が寝ている時間も掛かってきたようで、朝は向こうが就寝時間らしく、また次の日の夜になると佑から折り返して電話……という事を繰り返していた。
同じぐらい、外国語のメールも大量に佑宛てに届いていて、彼はその返信に追われている。
「ファッションウィークがあったんですよ。社長はCEPの共同デザイナーとして名前を出していますから、会えなかった方々が残念がっているのです」
松井に説明され、香澄はCEPがパリコレに参加しているブランドだと思い出す。
なぜ行かなかったのかという質問はぼかされてしまったが、よく考えると自分のせいでは……と思えてくる。
(私が東京にすら慣れていなくて、仕事も頼りないから、海外出張に連れて行くのも迷った? 佑さんと松井さんだけでも、出張してくれて良かったのに……)
かといって、自分一人本社に残されて、海外にいる佑への中継地点としてしっかりできるかと言われると、今はまだ自信がない。
(結局、そうなる事も見越して、出張そのものを取りやめにしたんだったら……)
昼休みに食事をとったあと、香澄は社員食堂のあるフロアの手洗いでぼんやりと歯磨きをしていた。
TMタワーの手洗いはどのフロアに行っても綺麗で、男性トイレは分からないが、女性トイレはまるでホテルのようだ。
個室一つ一つがゆとりのある面積で綺麗な上、最新設備の手洗い場がある他、女優ライトのついたパウダールームがある。
加えてコンセントやUSBポートまであり、充電しながらしっかり化粧直しができるようになっている。
これはこのTMタワー全体がそうらしく、下の商業施設の手洗いも客に好評らしい。
(今後はこんな風に足手まといになる事が減るよう、努力しなきゃ)
パウダールームでは女性社員が何人かいて、それぞれ充電しながらお喋りをしているようだった。
香澄は自分の思考に没頭していたので、彼女たちのお喋りが止まって一人がこちらに歩み寄ってきたのに気付かなかった。
「ねぇ、赤松さんだっけ?」
「へっ!? うぐっ」
急に話し掛けられてびっくりし、香澄は口の中にあった泡を呑み込みかける。
慌てて泡を吐き出し、「ふみまひぇん」と謝りながら持参した水でうがいをすると、話しかけて来た彼女が「ごめんね」と謝った。
うがいをしてタオルハンカチで口元を拭い、彼女の方を見て、香澄は内心固まった。
(あっ……、この方は噂に聞いた飯山さん……かもしれない)
目の前に立っているのは、艶のあるロングヘアをグラデーションカラーに染め、毛先を緩く巻いている美人だ。
美人といえども先日の百合恵のように色んなタイプがいるが、飯山はいわゆるキツネ顔の、強気な顔立ちの美人だ。
いわゆる、〝女性がなりたいと思う美人顔〟だ。
飯山はテラコッタカラーのスタンドカラーシャツに、チャコールグレーのペンシルスカートを着ている。
背が高くてモデルのような体型なので、そのIラインの服装がとても似合っていた。
「私、Chief Every Feminineのデザイナーをしてる、飯山安奈って言うの。宜しくね。あなた、新しく社長秘書になった赤松さんで合ってるよね?」
「はい、赤松です。宜しくお願い致します」
香澄はペコリと頭を下げる。
「赤松さんって、どういう経緯で社長秘書になったのか聞いてもいい? 秘書課の友達に聞いても、教えられないって言われちゃって」
「え……えぇと……。元々札幌で飲食店のエリアマネージャーをしていたのですが、社長が来店されまして、仕事ぶりを見てスカウトされた次第です」
こういう質問をされた時は、あらかじめ決めていた答えを返すようにしている。
「ふぅん……。元は飲食店で全然業種が違うのに、Chief Everyの社長秘書になっちゃうの、凄いね。大抜擢だわ」
「あはは……。そう思いますよね。私も凄い幸運だと思います」
思っていたよりも飯山は普通に会話してくれて、もしかしたら成瀬たちが警戒していたほどでもないのでは……と思い始める。
「普段、社長と私的な会話とかする?」
「あー……、天気とかご飯の話ぐらいならします」
「今日もだけど、昼休み、いつも社長と同じテーブルにいるよね?」
(あぁ、こうやってジワジワくるのか……)
納得しつつ、香澄は〝頼りない新人秘書〟としてヘラリと笑う。
「まだ入社して三か月も経っていないので、社長や松井さんが気を遣ってくださっているのだと思います。私が所属しているのは特別なところで、同じ部屋には松井さんしかいません。仲良くなれそうな同い年くらいの人も、まだ探し途中で……」
「そういえば、成瀬さんたちが同じテーブルに押しかけてたっけ。彼女たちには気を付けた方がいいよ。社長と親しいふりをして、気に入らない社員の悪口を社長に吹き込む人だから」
(え……)
成瀬たちとは真逆の事を言われ、香澄は一瞬混乱する。
けれど、先日成瀬たちが「両方の言い分を聞いた上で、赤松さんが判断して」と言っていたのを思い出す。
ああいう、公平な事を言える人は信用してもいいと、香澄の本能が告げている。
普通なら自分に不利になる事は言いたがらないはずだ。
それを大っぴらに公開して、判断は任せると言ってきたのは、香澄が自由に考えても自分たちが第三者的に正しいという自信があるからだ。
(飯山さんがどう言うか、様子を見てみよう)
「そうなんですね。初めて聞いたので驚きました」
「付き合う人は選んだ方がいいよ。成瀬さんたち、あまり品のいい人じゃないから、一緒にいるとうつるかも。社長秘書があんなにガハガハ笑ったら、社長にも迷惑かけるでしょう?」
(あー……これは……)
初対面で人の悪口を言ってくる人は嫌だ。
成瀬たちと社員食堂で初めて話した時も、飯山について忠告を受けたが、こんな悪意は見せてこなかった。
上手く言い表せないが、成瀬たちは淡々と事実を述べているように思えた。
だが飯山の場合は感情が先に出ていて、彼女たちの事が嫌いで堪らない感情が噴き出ているように見える。
(少なくとも、成瀬さんたちは〝品が悪い〟とか言わなかったもんなぁ)
彼女たちがもしこの言葉を聞いたら、飯山の言う〝ガハガハ笑い〟をしながら「下品でごめんあそばせー!」と笑い飛ばしそうだ。
香澄が考えている間にも、飯山は成瀬たちの悪口を次から次へと言っている。
この場からどう立ち去ったらいいか分からないでいる香澄は、しばし〝無〟になっていた。
だがウォレットポシェットからスマホの通知音が鳴ったのをきっかけに、ハッと時間を気にするふりをしてスマホを開いた。
「あっ、ごめんなさい。急な呼び出しが入ったみたいです。すぐ行かないと……」
「うん、分かった。引き留めてごめんね。またね」
笑顔で手を振る飯山に会釈をし、パウダールームにいる彼女の友人にも会釈をして、香澄は手洗いを出た。
(おおおおお……。ミッションコンプリート)
ドッドッドッ……と心臓が早鐘を打ち、香澄は溜め息をつく。
ひとまず問題なくファーストコンタクトを終えられたので、昼休みも終わりそうなのでそのまま社長秘書室に戻った。
(どう対応するかも考えないとな)
香澄は学生時代から、苦手だと思った人からは自然と距離を取り、スッ……と気配を消すタイプだ。
それをやると相手からすれば〝話してもつまらない相手〟になるので、都合がいい。
しかし飯山の場合、佑が関わっているので当分香澄に対して興味津々で関わってくるだろう。
(一応、会社に提出した履歴書には、佑さんの不動産のマンションで暮らしている事になっているから、偽の住所をスラスラ言えるよう暗記しておこう)
最初、まだここまで佑と仲良くなれていなかったので、人事に知らせる住所は白金台の御劔邸とは別の所がいいと香澄が言い出したのだ。
佑はそれに了解してくれ、彼の手持ちの不動産のマンションの空き部屋を登録してくれた。
憧れていた日本の有名アニメスタジオの美術館に行ったあと、近くにある井の頭公園でのんびりと散歩をする。
日曜日は近場という事で、品川にある水族館に行き、ボウリングも少しした。
ボウリングなど本当に久しぶりで、何回も失敗してしまったのだが、佑は上手く投げられるコツを根気よく教えてくれたので、本当に優しいと思う。
彼はと言えばストライクではない時が珍しいほどで、近くのレーンにいたボウリング通らしい男性が、食い入るように見ていた。
楽しい週末デートが終わった後も、香澄は忙しく働きどんどん秘書業になれていく。
本来なら二月の上旬に、佑は行かなければいけない海外出張があったらしいのだが、それは他の人が代理を務めたようだ。
というのも、ここ最近の佑が海外からの対応に忙しそうで、原因はどうやら行かなければならない場所に不参加だったから……という理由らしい。
相手は怒ってはいないものの、非常に残念がっているようだ。
電話の主とは時差もあり、佑は主に夕食後から寝るまでの時間に、沢山の電話を受けていた。
電話は彼が寝ている時間も掛かってきたようで、朝は向こうが就寝時間らしく、また次の日の夜になると佑から折り返して電話……という事を繰り返していた。
同じぐらい、外国語のメールも大量に佑宛てに届いていて、彼はその返信に追われている。
「ファッションウィークがあったんですよ。社長はCEPの共同デザイナーとして名前を出していますから、会えなかった方々が残念がっているのです」
松井に説明され、香澄はCEPがパリコレに参加しているブランドだと思い出す。
なぜ行かなかったのかという質問はぼかされてしまったが、よく考えると自分のせいでは……と思えてくる。
(私が東京にすら慣れていなくて、仕事も頼りないから、海外出張に連れて行くのも迷った? 佑さんと松井さんだけでも、出張してくれて良かったのに……)
かといって、自分一人本社に残されて、海外にいる佑への中継地点としてしっかりできるかと言われると、今はまだ自信がない。
(結局、そうなる事も見越して、出張そのものを取りやめにしたんだったら……)
昼休みに食事をとったあと、香澄は社員食堂のあるフロアの手洗いでぼんやりと歯磨きをしていた。
TMタワーの手洗いはどのフロアに行っても綺麗で、男性トイレは分からないが、女性トイレはまるでホテルのようだ。
個室一つ一つがゆとりのある面積で綺麗な上、最新設備の手洗い場がある他、女優ライトのついたパウダールームがある。
加えてコンセントやUSBポートまであり、充電しながらしっかり化粧直しができるようになっている。
これはこのTMタワー全体がそうらしく、下の商業施設の手洗いも客に好評らしい。
(今後はこんな風に足手まといになる事が減るよう、努力しなきゃ)
パウダールームでは女性社員が何人かいて、それぞれ充電しながらお喋りをしているようだった。
香澄は自分の思考に没頭していたので、彼女たちのお喋りが止まって一人がこちらに歩み寄ってきたのに気付かなかった。
「ねぇ、赤松さんだっけ?」
「へっ!? うぐっ」
急に話し掛けられてびっくりし、香澄は口の中にあった泡を呑み込みかける。
慌てて泡を吐き出し、「ふみまひぇん」と謝りながら持参した水でうがいをすると、話しかけて来た彼女が「ごめんね」と謝った。
うがいをしてタオルハンカチで口元を拭い、彼女の方を見て、香澄は内心固まった。
(あっ……、この方は噂に聞いた飯山さん……かもしれない)
目の前に立っているのは、艶のあるロングヘアをグラデーションカラーに染め、毛先を緩く巻いている美人だ。
美人といえども先日の百合恵のように色んなタイプがいるが、飯山はいわゆるキツネ顔の、強気な顔立ちの美人だ。
いわゆる、〝女性がなりたいと思う美人顔〟だ。
飯山はテラコッタカラーのスタンドカラーシャツに、チャコールグレーのペンシルスカートを着ている。
背が高くてモデルのような体型なので、そのIラインの服装がとても似合っていた。
「私、Chief Every Feminineのデザイナーをしてる、飯山安奈って言うの。宜しくね。あなた、新しく社長秘書になった赤松さんで合ってるよね?」
「はい、赤松です。宜しくお願い致します」
香澄はペコリと頭を下げる。
「赤松さんって、どういう経緯で社長秘書になったのか聞いてもいい? 秘書課の友達に聞いても、教えられないって言われちゃって」
「え……えぇと……。元々札幌で飲食店のエリアマネージャーをしていたのですが、社長が来店されまして、仕事ぶりを見てスカウトされた次第です」
こういう質問をされた時は、あらかじめ決めていた答えを返すようにしている。
「ふぅん……。元は飲食店で全然業種が違うのに、Chief Everyの社長秘書になっちゃうの、凄いね。大抜擢だわ」
「あはは……。そう思いますよね。私も凄い幸運だと思います」
思っていたよりも飯山は普通に会話してくれて、もしかしたら成瀬たちが警戒していたほどでもないのでは……と思い始める。
「普段、社長と私的な会話とかする?」
「あー……、天気とかご飯の話ぐらいならします」
「今日もだけど、昼休み、いつも社長と同じテーブルにいるよね?」
(あぁ、こうやってジワジワくるのか……)
納得しつつ、香澄は〝頼りない新人秘書〟としてヘラリと笑う。
「まだ入社して三か月も経っていないので、社長や松井さんが気を遣ってくださっているのだと思います。私が所属しているのは特別なところで、同じ部屋には松井さんしかいません。仲良くなれそうな同い年くらいの人も、まだ探し途中で……」
「そういえば、成瀬さんたちが同じテーブルに押しかけてたっけ。彼女たちには気を付けた方がいいよ。社長と親しいふりをして、気に入らない社員の悪口を社長に吹き込む人だから」
(え……)
成瀬たちとは真逆の事を言われ、香澄は一瞬混乱する。
けれど、先日成瀬たちが「両方の言い分を聞いた上で、赤松さんが判断して」と言っていたのを思い出す。
ああいう、公平な事を言える人は信用してもいいと、香澄の本能が告げている。
普通なら自分に不利になる事は言いたがらないはずだ。
それを大っぴらに公開して、判断は任せると言ってきたのは、香澄が自由に考えても自分たちが第三者的に正しいという自信があるからだ。
(飯山さんがどう言うか、様子を見てみよう)
「そうなんですね。初めて聞いたので驚きました」
「付き合う人は選んだ方がいいよ。成瀬さんたち、あまり品のいい人じゃないから、一緒にいるとうつるかも。社長秘書があんなにガハガハ笑ったら、社長にも迷惑かけるでしょう?」
(あー……これは……)
初対面で人の悪口を言ってくる人は嫌だ。
成瀬たちと社員食堂で初めて話した時も、飯山について忠告を受けたが、こんな悪意は見せてこなかった。
上手く言い表せないが、成瀬たちは淡々と事実を述べているように思えた。
だが飯山の場合は感情が先に出ていて、彼女たちの事が嫌いで堪らない感情が噴き出ているように見える。
(少なくとも、成瀬さんたちは〝品が悪い〟とか言わなかったもんなぁ)
彼女たちがもしこの言葉を聞いたら、飯山の言う〝ガハガハ笑い〟をしながら「下品でごめんあそばせー!」と笑い飛ばしそうだ。
香澄が考えている間にも、飯山は成瀬たちの悪口を次から次へと言っている。
この場からどう立ち去ったらいいか分からないでいる香澄は、しばし〝無〟になっていた。
だがウォレットポシェットからスマホの通知音が鳴ったのをきっかけに、ハッと時間を気にするふりをしてスマホを開いた。
「あっ、ごめんなさい。急な呼び出しが入ったみたいです。すぐ行かないと……」
「うん、分かった。引き留めてごめんね。またね」
笑顔で手を振る飯山に会釈をし、パウダールームにいる彼女の友人にも会釈をして、香澄は手洗いを出た。
(おおおおお……。ミッションコンプリート)
ドッドッドッ……と心臓が早鐘を打ち、香澄は溜め息をつく。
ひとまず問題なくファーストコンタクトを終えられたので、昼休みも終わりそうなのでそのまま社長秘書室に戻った。
(どう対応するかも考えないとな)
香澄は学生時代から、苦手だと思った人からは自然と距離を取り、スッ……と気配を消すタイプだ。
それをやると相手からすれば〝話してもつまらない相手〟になるので、都合がいい。
しかし飯山の場合、佑が関わっているので当分香澄に対して興味津々で関わってくるだろう。
(一応、会社に提出した履歴書には、佑さんの不動産のマンションで暮らしている事になっているから、偽の住所をスラスラ言えるよう暗記しておこう)
最初、まだここまで佑と仲良くなれていなかったので、人事に知らせる住所は白金台の御劔邸とは別の所がいいと香澄が言い出したのだ。
佑はそれに了解してくれ、彼の手持ちの不動産のマンションの空き部屋を登録してくれた。