重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 3
黒歴史
それも、後日になって渡すのが馬鹿らしく思えた。
雪が降るなか、香澄は頭を冷やすために札幌駅の外に出て、ベンチに座った。
情けなくて、悔しくて、次から次に涙が出てくる。
カップルや家族連れでいっぱいの駅前で、香澄は一人嗚咽していた。
「……大丈夫?」
そんな香澄に声を掛けてくる男性がいた。
(帰らなきゃ)
――変な人だったら困る。
そう思った香澄は、「大丈夫です」と返事をして立ち上がった。
「何か温かい物でもご馳走しようか?」
若い男性は親切な言葉を口にしたが、そのあとに〝見返り〟を求められては困る。
「いいえ、本当に大丈夫ですから」
香澄はペコリと頭を下げ、「そうだ」と思って男性の手にプレゼントのタオルハンカチを押しつけた。
「それ、あげます。必要なくなった物なので。要らなかったら捨ててください」
「あっ、ちょっと……」
駅前でも外な上、相手は駅を背にしていたので、逆光になっていて顔がよく分からない。
そのまま香澄は駅の中に向けて走り出した。
**
ストローを吸うとズッ……と音がして、コーヒーシェイクの底が見える。
(嫌なこと思い出しちゃった)
溜め息をつき、香澄は腕時計を確認する。
佑がくれた腕時計で、女性的な雰囲気があって上品なうえ、文字盤が見やすい。
しょっちゅう身につける物だが、どこのブランドの物で幾らするかは怖いので考えていない。
(あの頃のどん底から思うと、すっかり変わっちゃったな)
当時なら高くて滅多に飲めなかったサンアドバンスのシェイクも、自分一人でおやつ代わりに一番大きいサイズだって注文できる。
(あれから約七年か……。お互い、成長できてるといいんだけど)
健二は勿論だし、自分も子供っぽいところがあったので、当時より大人になれていたら……と願う。
その時、スマホが通知を慣らし、健二からのメッセージを表示した。
『六本木ついた。外出てくれる?』
思考に没頭して時間を忘れていたが、もう一度時計を確認すると健二が遅刻したのは十分ほどだ。
(まぁ、範疇か。遅れるって連絡してくれたし)
あれだけの大遅刻をかまされたのは後にも先にも初めてで、あれを基準に考えると十分の遅刻ぐらいなんでもない。
可能な限りカップに残っていたシェイクを吸い、これ以上飲めなくなったあと、香澄は立ち上がってゴミを捨て、店を出た。
ビルを出る時にチラッと確認すると、私服を着た久住と佐野も店を出てくるところだ。
彼らの姿を見ると、佑ではないけれど彼の気配を感じて頼もしく感じる。
微かに温かくなったように感じられる外気を感じ、香澄は左右を見回す。
「香澄!」
声を掛けられそちらを見ると、ジーパンにグレーのセーターの上に黒いチェスターコートを羽織った健二が歩いてくるところだ。
(基本的に大学生時代と変わらないけど、大人の男の人っぽい雰囲気にはなったな)
彼の身長は百七十七センチメートルで、標準より高めだ。
体つきは純日本人なので、佑ほど胸板などの厚みはない。
それでもパッと見は身長や体格、顔立ちなどから格好いい部類に入り、道行く若い女性がチラッと彼を気にするのを見た。
(第三者的に見て格好いいのは認めるけど、もう何も感じないなぁ)
のんびりとそんな事を考えながら、香澄は彼に歩み寄り「こんにちは」と挨拶をした。
「ちは。遅れて悪い」
「ううん」
(ちゃんと謝れてる。成長したんだなぁ)
のんきに彼を褒め、心の中で拍手をする。
「飯、行くか」
「うん」
「店、予約したけど、イタリアンでいいんだよな?」
「うん。ありがとう」
そして二人は六本木交差点から歩いてすぐのビルにある、イタリアンレストランに入った。
レストランは通りに面したビルの一階にあり、壁際に長いチェスターフィールドソファがあり、白いテーブルクロスが掛けられた反対に椅子席がある。
テーブルを繋げれば、貸し切りにもできそうだ。
テーブル席にはイタリアブランドの物らしい、カラフルなサービスプレートが置かれ、ナプキンやカトラリー、グラスなど一通りのセットがされている。
「高いお店じゃないの?」
佑とよくコース料理を提供する店に行っているので、これらのセットを見ると高級そうな店だと察してしまう。
香澄としてはもっとカジュアルに食べられる店を想像していて、服装が大丈夫なのか心配してしまった。
(一応、他のお客さんはカジュアルな普段着だから大丈夫なのかな……)
テーブルの上にはガラスの小さな花器に、花が二輪ほど飾られている。
「大丈夫。見た目は上品だけど、ランチ価格はそれほどじゃないみたいだから」
香澄に応え、健二はドリンクメニューを覗く。
香澄にもメニューが差し出されたので、半分ドキドキしながら見てみたが、確かに良心的な値段だった。
(佑さんと行くお店、ジュース一杯でも千円以上するもんなぁ)
ここ二か月ほど、彼とばかり行動を共にして食事をしていたので、感覚が麻痺しそうになる。
飲み物を注文したあと、フードメニューを見て、二人とも前菜、サラダ、好きなパスタ一品にデザート、アフタードリンクがついているパスタコースにした。
それも、一人当たり二千円前後で済む値段だ。
(千円前後くらいのつもりだったけど、お店がお洒落だから適正価格だな。それに料理も美味しそうだし、食材もこだわってそう)
つい、元飲食店員の目線で店内を見て、香澄は健二に微笑みかけた。
「素敵なお店に連れて来てくれてありがとう」
言いながら、店内に久住と佐野がいるのを確認する。
彼らは予約していなかったので少し待っていたようだが、遅れてテーブルについたところだ。
「どいたしまして。相応に稼がせてもらってるから、最近の趣味は食べ歩きなんだ。太ったら困るから、ジムには行ってるけど」
軽く微笑んだ健二は、スマホを弄り出す様子もない。
昔の印象の彼だと、誰かと一緒に食事をしていても自分本位にスマホを弄り、〝ながら〟で話す印象があった。
「健二くんは相変わらずスリムだよね。私も最近少し食べ過ぎちゃってるから、もう少し鍛えないと」
お腹や二の腕あたりを気にしつつ笑うと、健二が微笑みかけてきた。
「俺と同じジム来るなら、紹介するけど」
「や、せっかくだけど、行ってるところあるからいいよ。ありがとう」
「そっか」
健二は少し残念そうな顔をし、何とはなしにおしぼりを指で弄る。
「一緒にジムに行く彼女とかいないの?」
「いやー、今はいないかな。丁度いない時期」
そう言って香澄を見つめてくるので、思わずごまかし笑いをして「そうなんだ」と言いつつ、服が気になるふりをして俯いた。
ちょいちょい、とニットを引っ張り、気になったところを直すふりをする。
「香澄は? 男いるの?」
「うん」
その質問には、きっぱりと頷いておいた。
「そっか。……まー、いるよな。二十七にもなったし、割といい女だし」
「そ、そんな事ないよ」
幾ら相手が健二でも、ストレートな言葉を向けられると少し照れる。
「いや、すっげぇ垢抜けたと思うけど? 昔は服に気を遣えとか言っちゃったけど、今の香澄ならどんな男でも寄ってくると思う」
少なからず傷ついた過去の言葉を再び口にされ、なおかつ〝現在〟はフォローされ、香澄は微妙に微笑む。
「ありがとう。恋人のお陰かな」
真実なので、そう言っておく。
「香澄の恋人って、どんなやつ?」
前菜が運ばれてきて、目の前にプレートが置かれる。
様々な具材が入ったイタリアオムレツや、カボチャサラダ、豆をトマトベースで煮込んだ物が小さなココットに入っている。
サラダも小さめの器で置かれた。
「いただきます」
香澄は手を合わせてそう言い、健二の質問をそれとなくかわす。
けれど彼は一口で小さなオムレツを口に入れ、咀嚼して呑み込んでからまた尋ねてきた。
「彼氏、会社の人?」
「……うん。上司」
「へぇ、上司? 幾つ? まさか年上専じゃないよな?」
「違うよ。三十二歳」
「ふぅん、三十路だけど、ギリ若い感じか」
その言い方が、少し引っかかる。
雪が降るなか、香澄は頭を冷やすために札幌駅の外に出て、ベンチに座った。
情けなくて、悔しくて、次から次に涙が出てくる。
カップルや家族連れでいっぱいの駅前で、香澄は一人嗚咽していた。
「……大丈夫?」
そんな香澄に声を掛けてくる男性がいた。
(帰らなきゃ)
――変な人だったら困る。
そう思った香澄は、「大丈夫です」と返事をして立ち上がった。
「何か温かい物でもご馳走しようか?」
若い男性は親切な言葉を口にしたが、そのあとに〝見返り〟を求められては困る。
「いいえ、本当に大丈夫ですから」
香澄はペコリと頭を下げ、「そうだ」と思って男性の手にプレゼントのタオルハンカチを押しつけた。
「それ、あげます。必要なくなった物なので。要らなかったら捨ててください」
「あっ、ちょっと……」
駅前でも外な上、相手は駅を背にしていたので、逆光になっていて顔がよく分からない。
そのまま香澄は駅の中に向けて走り出した。
**
ストローを吸うとズッ……と音がして、コーヒーシェイクの底が見える。
(嫌なこと思い出しちゃった)
溜め息をつき、香澄は腕時計を確認する。
佑がくれた腕時計で、女性的な雰囲気があって上品なうえ、文字盤が見やすい。
しょっちゅう身につける物だが、どこのブランドの物で幾らするかは怖いので考えていない。
(あの頃のどん底から思うと、すっかり変わっちゃったな)
当時なら高くて滅多に飲めなかったサンアドバンスのシェイクも、自分一人でおやつ代わりに一番大きいサイズだって注文できる。
(あれから約七年か……。お互い、成長できてるといいんだけど)
健二は勿論だし、自分も子供っぽいところがあったので、当時より大人になれていたら……と願う。
その時、スマホが通知を慣らし、健二からのメッセージを表示した。
『六本木ついた。外出てくれる?』
思考に没頭して時間を忘れていたが、もう一度時計を確認すると健二が遅刻したのは十分ほどだ。
(まぁ、範疇か。遅れるって連絡してくれたし)
あれだけの大遅刻をかまされたのは後にも先にも初めてで、あれを基準に考えると十分の遅刻ぐらいなんでもない。
可能な限りカップに残っていたシェイクを吸い、これ以上飲めなくなったあと、香澄は立ち上がってゴミを捨て、店を出た。
ビルを出る時にチラッと確認すると、私服を着た久住と佐野も店を出てくるところだ。
彼らの姿を見ると、佑ではないけれど彼の気配を感じて頼もしく感じる。
微かに温かくなったように感じられる外気を感じ、香澄は左右を見回す。
「香澄!」
声を掛けられそちらを見ると、ジーパンにグレーのセーターの上に黒いチェスターコートを羽織った健二が歩いてくるところだ。
(基本的に大学生時代と変わらないけど、大人の男の人っぽい雰囲気にはなったな)
彼の身長は百七十七センチメートルで、標準より高めだ。
体つきは純日本人なので、佑ほど胸板などの厚みはない。
それでもパッと見は身長や体格、顔立ちなどから格好いい部類に入り、道行く若い女性がチラッと彼を気にするのを見た。
(第三者的に見て格好いいのは認めるけど、もう何も感じないなぁ)
のんびりとそんな事を考えながら、香澄は彼に歩み寄り「こんにちは」と挨拶をした。
「ちは。遅れて悪い」
「ううん」
(ちゃんと謝れてる。成長したんだなぁ)
のんきに彼を褒め、心の中で拍手をする。
「飯、行くか」
「うん」
「店、予約したけど、イタリアンでいいんだよな?」
「うん。ありがとう」
そして二人は六本木交差点から歩いてすぐのビルにある、イタリアンレストランに入った。
レストランは通りに面したビルの一階にあり、壁際に長いチェスターフィールドソファがあり、白いテーブルクロスが掛けられた反対に椅子席がある。
テーブルを繋げれば、貸し切りにもできそうだ。
テーブル席にはイタリアブランドの物らしい、カラフルなサービスプレートが置かれ、ナプキンやカトラリー、グラスなど一通りのセットがされている。
「高いお店じゃないの?」
佑とよくコース料理を提供する店に行っているので、これらのセットを見ると高級そうな店だと察してしまう。
香澄としてはもっとカジュアルに食べられる店を想像していて、服装が大丈夫なのか心配してしまった。
(一応、他のお客さんはカジュアルな普段着だから大丈夫なのかな……)
テーブルの上にはガラスの小さな花器に、花が二輪ほど飾られている。
「大丈夫。見た目は上品だけど、ランチ価格はそれほどじゃないみたいだから」
香澄に応え、健二はドリンクメニューを覗く。
香澄にもメニューが差し出されたので、半分ドキドキしながら見てみたが、確かに良心的な値段だった。
(佑さんと行くお店、ジュース一杯でも千円以上するもんなぁ)
ここ二か月ほど、彼とばかり行動を共にして食事をしていたので、感覚が麻痺しそうになる。
飲み物を注文したあと、フードメニューを見て、二人とも前菜、サラダ、好きなパスタ一品にデザート、アフタードリンクがついているパスタコースにした。
それも、一人当たり二千円前後で済む値段だ。
(千円前後くらいのつもりだったけど、お店がお洒落だから適正価格だな。それに料理も美味しそうだし、食材もこだわってそう)
つい、元飲食店員の目線で店内を見て、香澄は健二に微笑みかけた。
「素敵なお店に連れて来てくれてありがとう」
言いながら、店内に久住と佐野がいるのを確認する。
彼らは予約していなかったので少し待っていたようだが、遅れてテーブルについたところだ。
「どいたしまして。相応に稼がせてもらってるから、最近の趣味は食べ歩きなんだ。太ったら困るから、ジムには行ってるけど」
軽く微笑んだ健二は、スマホを弄り出す様子もない。
昔の印象の彼だと、誰かと一緒に食事をしていても自分本位にスマホを弄り、〝ながら〟で話す印象があった。
「健二くんは相変わらずスリムだよね。私も最近少し食べ過ぎちゃってるから、もう少し鍛えないと」
お腹や二の腕あたりを気にしつつ笑うと、健二が微笑みかけてきた。
「俺と同じジム来るなら、紹介するけど」
「や、せっかくだけど、行ってるところあるからいいよ。ありがとう」
「そっか」
健二は少し残念そうな顔をし、何とはなしにおしぼりを指で弄る。
「一緒にジムに行く彼女とかいないの?」
「いやー、今はいないかな。丁度いない時期」
そう言って香澄を見つめてくるので、思わずごまかし笑いをして「そうなんだ」と言いつつ、服が気になるふりをして俯いた。
ちょいちょい、とニットを引っ張り、気になったところを直すふりをする。
「香澄は? 男いるの?」
「うん」
その質問には、きっぱりと頷いておいた。
「そっか。……まー、いるよな。二十七にもなったし、割といい女だし」
「そ、そんな事ないよ」
幾ら相手が健二でも、ストレートな言葉を向けられると少し照れる。
「いや、すっげぇ垢抜けたと思うけど? 昔は服に気を遣えとか言っちゃったけど、今の香澄ならどんな男でも寄ってくると思う」
少なからず傷ついた過去の言葉を再び口にされ、なおかつ〝現在〟はフォローされ、香澄は微妙に微笑む。
「ありがとう。恋人のお陰かな」
真実なので、そう言っておく。
「香澄の恋人って、どんなやつ?」
前菜が運ばれてきて、目の前にプレートが置かれる。
様々な具材が入ったイタリアオムレツや、カボチャサラダ、豆をトマトベースで煮込んだ物が小さなココットに入っている。
サラダも小さめの器で置かれた。
「いただきます」
香澄は手を合わせてそう言い、健二の質問をそれとなくかわす。
けれど彼は一口で小さなオムレツを口に入れ、咀嚼して呑み込んでからまた尋ねてきた。
「彼氏、会社の人?」
「……うん。上司」
「へぇ、上司? 幾つ? まさか年上専じゃないよな?」
「違うよ。三十二歳」
「ふぅん、三十路だけど、ギリ若い感じか」
その言い方が、少し引っかかる。