重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 3
元彼とのデート(?)
佑本人を目の前にすれば、あの美貌と完璧な肉体とで誰もが圧倒される。
海外の血が混じったモデルか俳優か、という外見をしておきながら、中身は年間所得が億単位のやり手経営者だ。
(教えてしまいたい。そうしたら、こんなこと言わなくなるのに。……でも、言ったら変な事になるのは決まってるから、言わない)
「そういうこと言わないで。私たちだって、あと三年したら三十歳になるんだから」
「まー、そうだけどさ。その時はそいつ、三十五になってるぜ」
「もぉ、年齢の話はいいよ。昔も言ったよね? 人の外見とか年齢とか、そういうところにこだわるの嫌だよ、って」
健二がしつこいので、香澄も少しムキになる。
怒らせたと分かったのか、健二は「悪かったよ」と溜め息をついてサラダを一口食べる。
「俺が言いたいのはさ、結婚したとして将来、年上の方が大体先にボケて死ぬぞって話」
「…………」
香澄は溜め息をつく。
健二の言う事は一理あり、正論だ。
それでも――。
「健二くんの言いたい事は分かるけど、私はまだ彼と結婚もしてない。そうなるのって、五十年ぐらい先の話だよね? 私自身ですら、五十年先のビジョンなんて分かっていない。そんな話を今しても無駄だよ。私も健二くんも、もしかしたらそれぐらいの年齢になる前に、病気か事故に遭うかもしれないんだよ?」
自分で言っておきながら、切なくなる。
現実的な話をすれば、きりがない。
「……私はいま、付き合いたてで幸せだし、あまりそういう事を考えたくない。計画性がないって言ってるんじゃなくて、まず結婚。それから子供とか家庭、子供を育てて、独り立ちしたら老後の事……とか、順番があるでしょ」
「そうだけどさ。……っていうか、随分そいつのこと庇うんだな? そんだけ惚れてるの?」
尋ねられ、香澄は頷く。
健二は空になったプレートを少し前に押しやり、溜め息をついた。
「昔は『健二くん、健二くん』って、俺の顔色窺って、刷り込みのカルガモの雛みたいだったのにな」
「……あれから七年経ったんだよ? 私も健二くんも変わってる」
香澄も前菜とサラダを食べ終え、ナプキンで軽く口端を拭う。
「なぁ、香澄の恋人ってどんな奴だよ。俺って今、かなり条件いいと思うけど、俺よりいい男なわけ?」
(どこからくるのかな、この自信は)
半ば呆れ、香澄は溜め息をつく。
「教えたってどうにかなる訳じゃないでしょ。私が付き合っている人がどんな人でも、健二くんには関係ないじゃない」
焼きたてのフォカッチャをむしって口に入れ、香澄は食べる事でごまかす。
そのあと、メインであるフェットチーネパスタが運ばれてきて、香澄は「わぁ、美味しそう」と夢中になるふりをして会話を回避した。
フェットチーネは絶妙な弾力がある。
自家製の生パスタを売りにしているようで、納得の美味しさだった。
(佑さんと来たかったな)
健二に気付かれないよう溜め息をつき、香澄はチラリと久住たちを見る。
自分たちがいつ店を出ても久住たちがついて来られるよう、少し遅めに食べる事にした。
当日入るレストランは健二が予約していたので、どこに入るか分からない。
だがどこの映画館を利用するかは分かっていたので、あらかじめ全体的な予定は伝える事ができていた。
やがてデザートのジェラートを食べ、コーヒーも飲み終わったあと、久住たちも食事を終えているのを確認して店を出る事にした。
「俺が出すよ」
「ありがとう」
昔と随分違うなと感心しつつ、香澄はお礼を言う。
(大学生時代もこれぐらいなら、私もしんどい思いをしなくて済んだのかな)
思うものの、あの時はお互い二十歳そこそこだった。
健二だって恋愛をして彼女をじっくり大切にするより、もっと求めていたものがあったかもしれない。
当時は今よりずっと金がなかったし、様々なものに対する価値観も違った。
(少なくとも、健二くんはいい意味で変われたのかな)
店を出てからシネマコンプレックスに向かい、ガラス張りの建物に入る。
内部はガラスの中で滝のように水が流れていて、とてもお洒落だ。
映画は健二と話し合って香澄が見たいと思っていた、ファンタジー要素のあるラブストーリーを見ると決まっていた。
それも健二がネットでチケットを買ってくれていたらしく、機械でチケットを発行したあと、エスカレーターに乗って上階に上がる。
映画館の建物全体がとても大きく、上階に上がるとガラス張りの外壁や高い天井による開放感が味わえる。
(札幌のシネコンはよく行っていたけど、こうやって建物で独立しているのは凄いな。……東京、凄い)
ポツンとそんな事を考えていると、健二に「行くぞ」と声を掛けられて慌ててあとを追いかける。
久住たちはどうするのか分からないが、恐らく映画が終わる時間にはロビーで待機しているのだろう。
上階にも売店があったが、お腹一杯なのでポップコーンはやめておく。
先ほどご馳走になったお礼に、健二の分も飲み物を買った。
この映画館はアクション映画などに用いられる、体験型のシートが有名らしいが、香澄たちの入ったプレミアムなシートがあるスクリーンも有名らしい。
「ここ」
チケットに書かれたシートまで辿り着くと、両側を仕切りで囲まれている特別な席だった。
「本当はカップルシートのある所にしたかったけど、ここも真ん中の仕切りを移動させたら、カップルシートっぽくできるから」
そう言って健二は二人の席の間にある仕切りを下げる。
結果的に、二人だけの空間ができあがってしまった。
(かっぷる……)
香澄は巨大なスクリーンを見ながら心の中で呟く。
(いや、違くない? 今日って何のために来たんだっけ? これじゃあ健二くんとデートしてるみたいじゃない。……友達でも映画ぐらい見るけど、七年ぶりに元彼と会って映画?)
今さら、自分が何をしているのか分からなくなり、香澄は混乱する。
けれどそのうち場内が暗くなって予告映像を流し始めたので、とりあえずスクリーンに集中する事にした。
巨大な画面に重低音の聞いたサウンド。
大好きな映画館で、いつもならワクワクしているのに、隣にいるのが健二なので変な気分だ。
(あ……)
ふと、大学生時代の健二とのデートで、太腿に手を置かれた事を思いだした。
(変わった……と思いたい。まさか同じ事を繰り返すとは思いたくないけど……)
あれだけ香澄が拒絶を示したのだから、彼も学習したと思いたい。
今のところ、香澄と過ごしている間に昔ほど酷い立ち居振る舞いはなかったので、そちらも成長したと信じたい。
(佑さんとも、まだ映画館デートした事なかったのになぁ)
心の中でぼやいてばかりだと気付き、香澄は小さく息をついてから「もうやめよう」と映画に集中する事にした。
『全米が泣いた』系の触れ込みでテレビでもCMをしていたラブストーリーは、特殊な設定もある上、泣きどころもきちんと作ってあって素晴らしい映画だった。
映像美に定評がある監督と美術監督がタッグを組み、音楽も素晴らしい。
香澄はいつのまにか健二の事をすっかり忘れ、のめり込むようにして映画を楽しんだ。
少し長めの二時間半の映画が終わり、エンドロールをすべて見終わってから香澄は息をついた。
「面白かったね」
「ああ」
立ち上がって腰をトントンしてから、香澄は空になったジュースの紙コップを持って映画館を出る。
手洗いに行って化粧直しをし、時間を確認すると夕方近くになっていた。
(佑さんから連絡きてるかな)
少し期待してスマホを開くと、佑からメッセージが一件入っている。
『楽しんで。でも何か危ない雰囲気になったら、すぐ久住と佐野にサインして。手を挙げたら反応するから』
文面から佑が心配してくれているのが分かり、胸の内が温かくなる。
それからポチポチと返信した。
『今、映画を見終わったところです。これから少しブラブラして、夕食をとって帰ります』
予定通りではそうなる。
昔のような嫌な面が減ったとしても、香澄は佑の彼女で必要以上に健二と時間を過ごすつもりはない。
(結局、今日のこれは何だったのかあとで聞いてみようかな)
手洗いを出ると、健二が待っていて「行くか」と歩き出す。
(手を繋ごうとしないのは、気を遣ってるんだろうな。映画館でも触ってこなかったのは、ちゃんと評価しよう)
そのあと、六本木の商業施設内をブラブラ歩いた。
レディース、メンズそれぞれ服や雑貨などを見ているうちに、夕食時になったのでまた外に出た。
海外の血が混じったモデルか俳優か、という外見をしておきながら、中身は年間所得が億単位のやり手経営者だ。
(教えてしまいたい。そうしたら、こんなこと言わなくなるのに。……でも、言ったら変な事になるのは決まってるから、言わない)
「そういうこと言わないで。私たちだって、あと三年したら三十歳になるんだから」
「まー、そうだけどさ。その時はそいつ、三十五になってるぜ」
「もぉ、年齢の話はいいよ。昔も言ったよね? 人の外見とか年齢とか、そういうところにこだわるの嫌だよ、って」
健二がしつこいので、香澄も少しムキになる。
怒らせたと分かったのか、健二は「悪かったよ」と溜め息をついてサラダを一口食べる。
「俺が言いたいのはさ、結婚したとして将来、年上の方が大体先にボケて死ぬぞって話」
「…………」
香澄は溜め息をつく。
健二の言う事は一理あり、正論だ。
それでも――。
「健二くんの言いたい事は分かるけど、私はまだ彼と結婚もしてない。そうなるのって、五十年ぐらい先の話だよね? 私自身ですら、五十年先のビジョンなんて分かっていない。そんな話を今しても無駄だよ。私も健二くんも、もしかしたらそれぐらいの年齢になる前に、病気か事故に遭うかもしれないんだよ?」
自分で言っておきながら、切なくなる。
現実的な話をすれば、きりがない。
「……私はいま、付き合いたてで幸せだし、あまりそういう事を考えたくない。計画性がないって言ってるんじゃなくて、まず結婚。それから子供とか家庭、子供を育てて、独り立ちしたら老後の事……とか、順番があるでしょ」
「そうだけどさ。……っていうか、随分そいつのこと庇うんだな? そんだけ惚れてるの?」
尋ねられ、香澄は頷く。
健二は空になったプレートを少し前に押しやり、溜め息をついた。
「昔は『健二くん、健二くん』って、俺の顔色窺って、刷り込みのカルガモの雛みたいだったのにな」
「……あれから七年経ったんだよ? 私も健二くんも変わってる」
香澄も前菜とサラダを食べ終え、ナプキンで軽く口端を拭う。
「なぁ、香澄の恋人ってどんな奴だよ。俺って今、かなり条件いいと思うけど、俺よりいい男なわけ?」
(どこからくるのかな、この自信は)
半ば呆れ、香澄は溜め息をつく。
「教えたってどうにかなる訳じゃないでしょ。私が付き合っている人がどんな人でも、健二くんには関係ないじゃない」
焼きたてのフォカッチャをむしって口に入れ、香澄は食べる事でごまかす。
そのあと、メインであるフェットチーネパスタが運ばれてきて、香澄は「わぁ、美味しそう」と夢中になるふりをして会話を回避した。
フェットチーネは絶妙な弾力がある。
自家製の生パスタを売りにしているようで、納得の美味しさだった。
(佑さんと来たかったな)
健二に気付かれないよう溜め息をつき、香澄はチラリと久住たちを見る。
自分たちがいつ店を出ても久住たちがついて来られるよう、少し遅めに食べる事にした。
当日入るレストランは健二が予約していたので、どこに入るか分からない。
だがどこの映画館を利用するかは分かっていたので、あらかじめ全体的な予定は伝える事ができていた。
やがてデザートのジェラートを食べ、コーヒーも飲み終わったあと、久住たちも食事を終えているのを確認して店を出る事にした。
「俺が出すよ」
「ありがとう」
昔と随分違うなと感心しつつ、香澄はお礼を言う。
(大学生時代もこれぐらいなら、私もしんどい思いをしなくて済んだのかな)
思うものの、あの時はお互い二十歳そこそこだった。
健二だって恋愛をして彼女をじっくり大切にするより、もっと求めていたものがあったかもしれない。
当時は今よりずっと金がなかったし、様々なものに対する価値観も違った。
(少なくとも、健二くんはいい意味で変われたのかな)
店を出てからシネマコンプレックスに向かい、ガラス張りの建物に入る。
内部はガラスの中で滝のように水が流れていて、とてもお洒落だ。
映画は健二と話し合って香澄が見たいと思っていた、ファンタジー要素のあるラブストーリーを見ると決まっていた。
それも健二がネットでチケットを買ってくれていたらしく、機械でチケットを発行したあと、エスカレーターに乗って上階に上がる。
映画館の建物全体がとても大きく、上階に上がるとガラス張りの外壁や高い天井による開放感が味わえる。
(札幌のシネコンはよく行っていたけど、こうやって建物で独立しているのは凄いな。……東京、凄い)
ポツンとそんな事を考えていると、健二に「行くぞ」と声を掛けられて慌ててあとを追いかける。
久住たちはどうするのか分からないが、恐らく映画が終わる時間にはロビーで待機しているのだろう。
上階にも売店があったが、お腹一杯なのでポップコーンはやめておく。
先ほどご馳走になったお礼に、健二の分も飲み物を買った。
この映画館はアクション映画などに用いられる、体験型のシートが有名らしいが、香澄たちの入ったプレミアムなシートがあるスクリーンも有名らしい。
「ここ」
チケットに書かれたシートまで辿り着くと、両側を仕切りで囲まれている特別な席だった。
「本当はカップルシートのある所にしたかったけど、ここも真ん中の仕切りを移動させたら、カップルシートっぽくできるから」
そう言って健二は二人の席の間にある仕切りを下げる。
結果的に、二人だけの空間ができあがってしまった。
(かっぷる……)
香澄は巨大なスクリーンを見ながら心の中で呟く。
(いや、違くない? 今日って何のために来たんだっけ? これじゃあ健二くんとデートしてるみたいじゃない。……友達でも映画ぐらい見るけど、七年ぶりに元彼と会って映画?)
今さら、自分が何をしているのか分からなくなり、香澄は混乱する。
けれどそのうち場内が暗くなって予告映像を流し始めたので、とりあえずスクリーンに集中する事にした。
巨大な画面に重低音の聞いたサウンド。
大好きな映画館で、いつもならワクワクしているのに、隣にいるのが健二なので変な気分だ。
(あ……)
ふと、大学生時代の健二とのデートで、太腿に手を置かれた事を思いだした。
(変わった……と思いたい。まさか同じ事を繰り返すとは思いたくないけど……)
あれだけ香澄が拒絶を示したのだから、彼も学習したと思いたい。
今のところ、香澄と過ごしている間に昔ほど酷い立ち居振る舞いはなかったので、そちらも成長したと信じたい。
(佑さんとも、まだ映画館デートした事なかったのになぁ)
心の中でぼやいてばかりだと気付き、香澄は小さく息をついてから「もうやめよう」と映画に集中する事にした。
『全米が泣いた』系の触れ込みでテレビでもCMをしていたラブストーリーは、特殊な設定もある上、泣きどころもきちんと作ってあって素晴らしい映画だった。
映像美に定評がある監督と美術監督がタッグを組み、音楽も素晴らしい。
香澄はいつのまにか健二の事をすっかり忘れ、のめり込むようにして映画を楽しんだ。
少し長めの二時間半の映画が終わり、エンドロールをすべて見終わってから香澄は息をついた。
「面白かったね」
「ああ」
立ち上がって腰をトントンしてから、香澄は空になったジュースの紙コップを持って映画館を出る。
手洗いに行って化粧直しをし、時間を確認すると夕方近くになっていた。
(佑さんから連絡きてるかな)
少し期待してスマホを開くと、佑からメッセージが一件入っている。
『楽しんで。でも何か危ない雰囲気になったら、すぐ久住と佐野にサインして。手を挙げたら反応するから』
文面から佑が心配してくれているのが分かり、胸の内が温かくなる。
それからポチポチと返信した。
『今、映画を見終わったところです。これから少しブラブラして、夕食をとって帰ります』
予定通りではそうなる。
昔のような嫌な面が減ったとしても、香澄は佑の彼女で必要以上に健二と時間を過ごすつもりはない。
(結局、今日のこれは何だったのかあとで聞いてみようかな)
手洗いを出ると、健二が待っていて「行くか」と歩き出す。
(手を繋ごうとしないのは、気を遣ってるんだろうな。映画館でも触ってこなかったのは、ちゃんと評価しよう)
そのあと、六本木の商業施設内をブラブラ歩いた。
レディース、メンズそれぞれ服や雑貨などを見ているうちに、夕食時になったのでまた外に出た。