理系女子の初恋
タチバナ設計の接待の日、念願だった田中さんとのお食事会のはずなのに、山口さんの機嫌が極悪で、居心地が悪過ぎる。

多分、さっき席を立ったタイミングで、田中さんから何か言われたのだろう。

私は悪くない、、

はずだけど、しばらくあたりがキツくなる事を覚悟しておいた方がいいかもしれない。

それにしても、現在進行形で睨まれてる理由がわからない。

田中さん、、何を言ったんだ?

考えても仕方がない、飲もう。

「本日はお時間を頂き、ありがとうございました、また今後ともよろしくお願い致します」

店の前で山口さんとその上司に挨拶をして見送り、無事、接待が終了した。

「やっと終わった、しんどかった」

「佐々木、心の声が漏れてるぞ?」

「あー麻友ちゃん、だいぶ酔ってますね」

「俺が送ろう」

「いや、俺が送りますよ」

「お前と2人で帰すのはまずいだろう?」

「いやいや、主任と2人でも同じでしょ?」

「大丈夫だ、佐々木は多分、最寄り駅が俺と同じだ」

「え?そうなんですか?でもそれ、今関係ないですよね?」

不毛だ、不毛が過ぎる、そんな事より私は今、お腹が空いている。

「私なら大丈夫です、お疲れ様でした」

深々とお辞儀をして、揉めてる2人の間を通り抜け、向かいにある定食屋を目指す。

「え?麻友ちゃん?どこ行くの?」

定食屋に入って、野菜炒め定食とハイボールを注文する。

何故か向かいに主任、隣に田中さんが座っている。

「佐々木は飲むと食欲が増すんだな、前に中華屋で会った時も、ガッツリ食べてて驚いた」

中華屋、、

「あー!幻主任がいた中華屋さん!」

「幻主任?」

「田中さんと飲みに行った日の帰りに、お腹が空いて中華屋さんに入ったんですけど、そこに幻主任が現れまして」

「嬉しくなって手を振ったら、幻主任が顔をそむけて照れちゃって、、かわいかったなー」

もう一度照れてかわいい幻主任が見たくなったので、主任に手を振ってみる。

「ふふっ、ほら、また照れてるー」

「ちょっと主任、これ、どういう事ですか?」

「そんな事、俺が知る訳ないだろ!?」

「何だよこれ、参ったな、、」

そう言って田中さんが、顔を手で覆った。

そうこうしている内に、注文していた野菜炒め定食が運ばれてきて、きっちりと完食する。

その後、どうやって帰るか散々揉めた結果、3人でタクシーに乗る事になった。

主任と田中さんに挟まれて後部座席に座った私は、乗り心地が悪かったせいなのか気分が悪くなり、かなりギリギリの闘いを強いられた。

家までちゃんと我慢した自分を褒めてあげたいと思う。
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