理系女子の初恋

森川

佐々木を家まで送った後、田中に誘われてもう一軒行く事になった。

「山口さん、ずっと佐々木を睨んでたな、お前、何やったんだよ」

「いや、トイレまで着いてきてしつこく迫られたから、個人的なやり取りはできないって断っただけですよ?」

「それだと佐々木を睨む理由がないだろ?」

「佐々木は関係ないから、あまり困らせないでやってくれって頼んだんですけど、、まさかそれが不味かった?」

「あーそれだなー」

「お前さー、会社でもそうだよな」

「何がですか?」

「お前が佐々木の事構い過ぎてるせいで、女子社員が佐々木の事悪く言ってるの、もしかして知らないの?」

「え?何それ、本当に?」

「おめでたいヤツだな、お前は」

「でも、同じ部署で働いてるんだから、しょうがないじゃないですか」

「俺も佐々木と同じ部署だけど?」

なんだそのジト目は、俺がお前程モテないからだと言いたいようだな。

「確か佐々木と同期で仲良くしてるヤツがいるだろ?あいつも結構モテるみたいだけど、お前と違ってうまくやってるみたいだよ?」

「池田君か!くっそーあいつ小賢(こざか)しそうだもんなー」

「お前、、佐々木の事が好きなのか?」

田中が珍しく動揺している、、思ってたより青いんだな。

「主任は、、どうなんですか?」

「え?俺?俺は、、」

さっき見た佐々木の笑顔がちらついた、、いや違う、、前に中華屋で見た笑顔だったかもしれない。

「いや、俺の事はどうでもいいんだよ、丁度いい機会だし、田中に話しておきたい事があるんだ」

「何ですか?」

「お前にそろそろプロジェクトマネージャーを任せたいんだ」

「へ?、、嬉しいですけど、ちょっと早くないですか?」

「まあな、でもお前なら大丈夫だと思うよ」

「実は、引き抜きの話があって、転職を考えてるんだ」

「え?」

「俺も30になったし、身の振り方を考えてたとこに、いい話をもらってな」

「製造業なんだが、社内システムの総取っ替えをするのに、ゼロから関わって欲しいと言われてる」

「とりあえずは、数年かけて海外の工場を回って、製造に関わる知識を叩き込まれる予定だ」

「30を過ぎて学ばせてもらえる環境に身を置けるなんて、贅沢な話だろ?」

「いつから、、ですか?」

「3ヶ月後だ」

「3ヶ月、、」

「俺が今の会社で得た知識と経験を、残った時間で、できるだけお前に渡したいと思ってるから、そのつもりでいて欲しい」
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