理系女子の初恋
「麻友ちゃんの好きな人は、俺じゃないよ」

「そんなの信じられませんよ、田中さんじゃなければ、他に誰がいるって言うんですか?」

「俺もそう思うけど、残念ながら俺じゃない」

「それが誰かを知りたいなら、直接麻友ちゃんに聞くべきだ」

「それに、彼女に好きな人がいるって事を俺に話すのも、さっき君が言ってた死体撃ち並みのマナー違反でしょ?」

俺に痛い所を突かれた池田君は、すっかり意気消沈してしまった、、少し酔ってるのかもしれない。

「今日池田君に声を掛けたのは、教えて欲しい事があったからなんだけど」

「、、何ですか?」

「俺のせいで麻友ちゃんが悪口を言われてるって聞いて、、」

「え?まさか田中さん、気付いてなかったんですか?」

気まずいのでこの質問はスルーだ 。

「池田君はどうやって女の子達に悪口を言わせないようにしてるのかなと思って」

「田中さんて、思ってたよりはいい人なんですね」

ん?馬鹿にされてる?いや、いい意味で言ってるんだよな?

「そんな事俺が田中さんに教える義理はないですけど、佐々木さんが悪く言われるのは本望ではないので、特別に教えてあげます」

「お願いします」

「佐々木さんと接する以上に、他の女の子と接触を持つようにするんです、そうする事で、佐々木さんが嫉妬の対象から外れます」

「でもそんな事したら、その女の子達を勘違いさせちゃわない?」

「俺はそんな下手は打ちませんし、田中さんが勘違いされる事に関しては、佐々木さんとは無関係なので、知ったこっちゃないです」

「池田君て、結構酷い奴だよね」

「あと、佐々木さんとの接触は必要最低限に抑え、極力人目につかないように気を付けて下さい」

「いや、一緒に仕事してるのにそんなの無理でしょ?それに人目のつかない所に連れ込んだりしたらセクハラだよね?」

「佐々木さんは田中さんとしか仕事してないんですか?違いますよね?佐々木さんは他の人ともイチャコラしてますか?してませんよね?」

「池田君、言い方」

「て言うか人気のない所に連れ込むって、田中さん馬鹿なんですか?俺は目立つような事をするなって言ってるんですよ」

「田中さんは、自分が周りにどう見られてるとか、あまり意識してませんよね?」

「俺が田中さんの事嫌いなのに会社で愛想良く接したのは、自分を良く見せる為ではなくて、他に理由があります」

「俺と田中さんが険悪そうにしていたら、2人の共通点である佐々木さんの事で揉めてると思う人がいるかもしれない、あれはその可能性を潰す為の笑顔です」

「自分の行動が他人にどう影響を与えるのか、田中さんも少しは考えた方がいいですよ」

言葉の端々に険を感じるものの、池田君の言ってる事が正し過ぎて、ぐうの音も出なかった。
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