理系女子の初恋
「佐々木、昨日のバグの修正依頼、どうなってる?」

主任の呼び掛けに作業中の手を止めて顔を上げる。

デスクのディスプレイ越しにこちらを見ている彼は、森川 光司(もりかわ こうじ)30歳、私の上司だ。

「あ、すみません、別件のバグの修正がまだ終わってなくて、、」

「お前馬鹿なのか!?リリース前の案件よりこっちが優先だろ!何度も同じ事を言わせるな!」

「え?あ!すみません!」

「あー、俺、今余裕あるんで、それ引き受けますよ?て言うか主任、そんなキツイ言い方しなくてもいいんじゃないですか?」

先輩の田中さんが、私をかばって間に入ってくれる。

「お前らがそうやって甘やかすから、いつまで経っても一人前にならないんだろうが!」

主任が更に語気を強める。

「すみません!すぐやります!田中さん、私、本当大丈夫なんで」

このままだと言い争いに発展しそうなので強引に話を終わらせ、慌てて昨日の依頼メールで修正箇所を確認し、作業に取り掛かる。

「麻友ちゃん、気にしなくていいからね?わかんない事あったら教えたげるから、すぐ相談するんだよ?」

田中さんが、わざわざ私がよく飲んでる缶コーヒーを買ってきて、励ましの言葉を掛けてくれた。

「ありがとうございます」

缶コーヒーを受け取り、大丈夫だとアピールするためにも、満面の笑顔でお礼を言う。

「頑張って」

田中さんは私の頭に手を置いて蕩けるような笑顔でそう言うと、自分のデスクへと戻って行った。

彼、田中 光希(たなか みつき)は私の3年先輩で、仕事ができるキラキラ系のイケメンだ。

誰にでも優しく、仕事ができて、イケメンとくれば、当然の結果で社内でもトップクラスのモテっぷりである。

そんな彼と接点が多い私は、女性社員から総スカンを食らっていた。

さっきの頭ポンポンも誰かに目撃されていたらしく、私の悪口大会開催中だった為トイレに行きそびれ、少し早めに昼休憩を終えて作業に戻る事にした。

「はあ~」

「何?すんごいため息なんてついちゃって」

周りに人がいないと思って油断していたら、同期の池田 渉(いけだ わたる)に声を掛けられた。

「いや、またちょっとやらかしちゃって」

池田君は学生時代からの知り合いで、部署は違うが最近一番仲良くしている友達だ。

「佐々木さん、最近やたらとテンパってるよね~、なんかあった?」

「だよね?自分でもテンパってると思うわ」

「飲みにでも行く?話だけならいくらでも聞くよ?」

「行きたい!、、でも駄目だ、仕事が詰まってて、今日も残業だな」

「じゃあ週末にでも、ね?」

「わかった、頑張る」

「また連絡する」

手をヒラヒラさせながら立ち去る池田君を見送った私は、午前中に終わらせる事ができなかった仕事の続きに取り掛かった。
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