理系女子の初恋
何か忘れ物でもしちゃったかな?

「せっかく待ってたのに、先に帰っちゃうなんて酷くない?」

ん?

「飲みに行く約束してたでしょ?」

断ったはずだが?

「麻友ちゃんてさ、考えてる事がすぐ顔に出るから、わかりやすいって言われない?」

「いや、そんな事は、、」

慌てて眉間の皺を伸ばす。

「まあいーや、今日は水曜だし予約してないけど平気だよね、どこ行こっか?何か食べたい物とかある?」

明らかに迷惑そうにしているはずの私の事は無視して、田中さんがグイグイと話を進めてしまう。

駅前に最近できた小洒落た居酒屋に入って乾杯するまでに、それから10分掛からなかった。

「で?麻友ちゃんは、何をそんなに悩んでいるの?」

「いやいや、まだ全然酔ってませんし、そもそも悩みなんて特にないですよ?」

「いやいやいやいや、先輩である俺の目は誤魔化せないよ?だって麻友ちゃん、最近絶対おかしいじゃん」

確かに、私は今悩んでいる。

生まれて初めて恋をして、自分の感情を上手くコントロールできなくなり、今までなら考えられないようなミスを連発しては、自己嫌悪に陥っているのだ。

かと言って、それを田中さんに相談できるわけがない。

でもどうしよう、、何かしら相談しないと収まらなそうだ。

しょうがない、、

「実は、、山口さんに田中さんとの食事をセッティングしてくれって頼まれてるんです」

「へ?」

「担当が替わる前の事は聞いていたので、田中さんに話を通さず適当にやり過ごしていたんですけど、そろそろ誤魔化しきれなくなってきちゃって、、」

「でも、田中さんにお願いするわけにもいかないし、どうしたら山口さんに納得して頂けるのかなって、ずっと悩んでて」

何を考えているのか、田中さんの表情が読めない。

「あー、わかった、それなら主任にお願いして、一度向こうの責任者も含めて接待させてもらおうか」

「で、その時に、俺が直接、個人的なやり取りはできないって、山口さんに断っておくから」

「なんかすみません、結局田中さんに面倒を押し付けるみたいになっちゃって、、私が上手くかわせれば良かったんですけど」

「謝る必要なんてないよ、むしろ俺のせいで麻友ちゃんが面倒な目にあってたんだ、今まで気付かなくてごめんな?」

田中さんが身を乗り出して、私の頭に手を置いた。

顔が近い、イケメンの破壊力、半端ない。
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