再会した幼馴染みは犬ではなく狼でした
 澄ちゃんが、だから言ったでしょと小声で私の側を通り過ぎた。

 週初めで、朝礼があり、部長から話があった。

 総会準備の忙しくなる時期で身体に気をつけるようになど、まあ、いつもの台詞が通り過ぎたところで、亮ちゃんの話になった。

 「先週から、高野亮君という、アメリカ支社から来た人が営業に入っている。まだ、正式な辞令が出ていないが、営業部に新しい部隊を作る予定で動いている。総会後に正式に辞令が出るが、それより先に総務人事では内密に色々フロアの変更や備品の発注その他をやっていくことになるだろう。聞かれても他言無用。それから、これは一応言っておくが、高野君はアメリカ支社の支社長の息子さんだ。サラブレッドの一人。専務とはいとこになる。会社の中枢になる若手だが、大学からアメリカにいて、支社での手腕も相当だ。そのつもりで指示を受けたらやって欲しい。」

 どうしたらいいんだろ。会社では私も亮ちゃんと共にかなりの有名人となってしまった。

 午前中。月曜日というのもあり、あまり人がこのフロアに来ることはなかった。
 昼休み。社食へ行くのをためらっていたら、カスミが迎えに来た。
 手招きしてる。

 はー、ごまかしてもこれは許してもらえないだろうな。そんな予感がする。何しろ、土曜日泊めて頂いたことになっているしね。

 「雫。社食はまずいよ。囲まれて殺されかねない。エレベーターもダメ。非常階段で外に避難だ。」
 そう言って、非常階段の重い扉を開けると、カンカン音を立てながら地上まで降りていく。
 一階につくと、扉をそうっと開けたカスミが外をうかがい、いいよ、と言う声と共に走って裏通りへ。

 
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