再会した幼馴染みは犬ではなく狼でした
 「……なったばかりです。」
 恥ずかしい。下を向いて小さい声で話す。

 「はー、真っ赤になって可愛いね。悔しいな、先輩相手じゃなかったら絶対略奪します。」
 亮ちゃんが、私を引っ張って抱き寄せた。
 
 それを見ると新田さんは眉をひそめた。
 「いい加減にして下さいよ。胸くそ悪い。」
 「お前なら、いくらでも相手いるだろう?」

 「よく言いますね、それはこっちの台詞です。」
 「いや、俺は向こうの暮らしも長くて、日本の女性はあまり付き合いがなかったんだ。どうしても雫のことが忘れられず、父に頼んで戻ってきた。決死の覚悟ってやつだ。ところが彼女に告白しようと思っていた前日に、雫に群がる男どもの多さに驚いて、とにかくやっきになった。のんびり出来ないと教えてくれた新田には感謝してる。」

 「なんてタイミングなんだよ。俺もついてないな。こんな前向きになったのは久しぶりなのに。」
 
 「す、すみません。そして、買いかぶりです。でもありがとうございます。お気持ち嬉しかったです。」
 小さい声で新田さんに言う。

 「雫、嬉しいとか言うな!」
 「え?」

 「亮さん、余裕ないっすねー。こりゃ、まだいけるかもしれねー。」
 ギロッと新田さんを睨む亮ちゃん。

 席を立つ新田さんは、こちらを見てにっこりした。
 「じゃあ、二人分のコース料理、ゆっくり食べて下さい。支払いは亮さんですよ?」
 「ああ、ありがとう。新田。あと、そう遠くないうちに会社には公表するから少し待ってくれ。」
 
 「わかりましたよ、フラれたということにすると、それはそれで彼女も大変になるかもしれないから作戦は考えておきます。じゃ。」
 そう言うと、一人出て行った。

 
 
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