再会した幼馴染みは犬ではなく狼でした
不安定な現状
忙しい亮ちゃんを思えば、噂のことを私に釈明する余裕もなかったのだろう。
だけど、常に一緒にいる彼女を会社で見るたびに、私の心は疲弊した。
土日も仕事のことが多くなり、お父様も帰国されているので行くところも多いのだろう。
私はめっきりメールで話すことが多くなった。
しかも、身体に気をつけてとかそんな社交辞令ばかり。
ズバッと聞ければいいのだろう。気持ちを伝えれば良かったのだろう。でも、どうして?
信じて欲しいといっていた言葉はいまや風前の灯火のようだった。
精神的にやられ始めて、また体調が悪くなってきた頃、帰り際エレベーターで乗ってきた新田さんと一緒になった。
顔色の悪い私を見て、一緒にエントランスを出るやいなや腕を引っ張って歩く。
「少し話そう。」
そう言われて、イヤだという気力もなく、頷いた。
タクシーに乗ると、新田さんのいきつけの家庭料理の店というところに下ろされた。
小さな店で新田さんの顔を見た女将が、頷いて奥の席に通してくれた。
「顔色悪い。食べてるのか?痩せただろう。」
そう言うと、女将に雑炊など身体に良いものをと頼んでくれる。
「……課長のこと、大変なことになってるな。」
新田さんはそういうと、苦笑いしながらお茶を飲んだ。
「新田さんも忙しいんでしょう?アメリカから帰国してすぐ異動で挨拶回られてましたよね。」
「まあ、わかっていたからそうでもない。亮さんの婚約者の話はあっちでも聞いていたんだ。それでも逃げるように日本に帰国して君のことを僕から奪って大切にするとか言っておきながらこのていたらく。許せないね。」
息巻いている新田さんの顔を見て、少し笑ってしまった。
「良かった。笑ったね。最近、君を見るといつも笑顔がなくて、心配だった。忙しいからだとみんな思っていたみたいだけど、違うというのが僕はわかっていたからね。」