再会した幼馴染みは犬ではなく狼でした
二人で話しているのをみんなが息をのんで見ている。
お父様、支社長が課長に会議室を使うことを聞くと、どうぞと案内されて、雫さん付いてきてと言われる。
部屋に入ると、ブラインドを下げて鍵をかけて座った。
「あの、コーヒーでもお持ちしましょうか?」
声をかけると、手を振って断られた。
「あまり時間がないんだ。少しだけ話していいかい?亮のいないところで話したかったんだ。」
嫌な予感がした。
「はい。」
「ありがとう。亮から話は聞いている。アメリカでかたくなに縁談を嫌がっていたのはそういうことだったのかとようやく合点がいった。妻はどうやら亮の気持ちを知っていたらしい。しかも、雫さんのお父さんとも連絡を取っていたと聞いて驚いたんだ。もちろん、僕も渡米する際、亮と妻のことをお隣の花崎さんにお願いしていった手前、勝手は許されないと思っている。」
「……。」
「それでだ。雫さんも社内の噂を耳にして傷ついているのだろう。知らなかったとはいえ、申し訳なかった。」
まさか、お父様から謝罪されるとは思わず、驚いて顔をじっと見てしまった。
「原田コーポレーションとはアメリカ支社は重要な取引をしている。優樹菜さんと亮が大学時代お付き合いしていたのは知っている?」
「……はい。聞いています。」
「そうか。もちろん別れたのだから、縁がなかったということだったのだろう。近年偶然大きな取引先になってしまって、こういう話になった。あちらが乗り気でね。別れた理由も亮から聞いたが、優樹菜さんは今度こそ別れることのないように改めると言うんだ。こういうことは、本人の気持ちが大事だから無理矢理押しつけるようなことはしたくなかった。日本に帰りたいというので、この縁談がイヤで逃げるのかと思ったら日本に忘れられない人が居ると言うんだ。それが雫さんだったんだね。」