再会した幼馴染みは犬ではなく狼でした
「……それは、仕事の姿とプライベートでの姿とは違うところもあると思います。仕事は、ここ一ヶ月一緒にしましたが、助かりました。相手を知っているからと言えば、そうとも言えますが。」
社長がうなずきながら、聞いた。
「で、問題は性格だろうな。」
「……原田社長から大切に育てられてきて、甘やかしももちろんあったでしょう。容姿も相まって、プライドが高いです。付き合っていた当時は若かったのもあり、振り回されるのも限度内なら許せていました。ただ、結婚するなら無理だと当時から思っていました。」
社長と専務は顔を見合わせて声を立てて笑い出した。
「はー、亮。お前変わったな。昔は割と従順で、言われたことは文句ひとつ言わず、我慢してでも健気にこなすイメージだった。はっきりと自分の意見を真っ直ぐ言うようになったな。最近の仕事ぶりもそういう感じがしていた。」
専務が笑いながら続けた。
「そうか。性格的にプライドが高い女は俺も大分見慣れている。可愛げがないなら使えないな。本人にやる気があれば、少し試用期間をおいて考えてみてもいいかもしれない。相性もあるだろうしな。海外の案件は、普段国内案件ばかりの俺の弱点でもある。彼女を取り込めれば自分のためにもなると思うんだ。」
社長も言う。
「進がいずれ私の後を継ぐと世間では思われている。おそらく、提案すると原田社長は前向きに娘を説得するだろう。お前との縁談と天秤にかける可能性もある。弟の意見も聞いてみないといけないが、お前はそうなったとして文句はあるか?」
「いいえ。そうなれば原田との取引は続けられるでしょうし、会社的には一番いい落とし所でしょう。彼女の気持ちが収まればですが。プライドが高いので、進さんの秘書になれれば落ち着く可能性もありますし。彼女が本社で花崎さんを攻撃しないでくれれば。」
「総務の彼女は4年目でチーフらしいな。部長にも話を聞いたが非常に評価が高い。良い娘さんのようだ。昔親しくしていたと聞いたが。」
「そうです。家族ぐるみでお付き合いがありました。あちらのご両親には付き合っていることもお伝えしてあります。」
「そうらしいな。大切にしないと、総務部が敵に回りそうだ。」
「総務部どころか、営業にも彼女のファンがいます。ライバルが結構いるんです。」
また、ふたりは大声で笑い出した。
「とにかく、弟のほうの報告を聞いてみようか。お前が入るのは最後でいいだろう。私の提案をするかどうかは、今の話し合いの結果を聞いてからだが。」
社長は、専務の顔を見て、専務は頷くと自席から会議室へ電話をするのだった。