再会した幼馴染みは犬ではなく狼でした
思いも寄らぬことⅡ
車にもたれかかり、こちらを見ている。
私に気づくと手を振ってくれた。
「さあ、乗って。」ドアを開けてエスコートしてくれる。
久しぶりの車。亮ちゃんの匂いがする。
運転席に乗ってくると、こちらに身体を向けて手を握った。
「本当に遅くなってごめんな。心配しただろう。」
亮ちゃんを見るとぎこちない笑顔になった。
「うん。心配したよ。でもね、お姉ちゃんが帰ってきてたの。話してたら気晴らしになった。」
亮ちゃんは大きく目を見開いて、驚いた表情を浮かべた。
「え?楓が帰ってきたの?今家に居るの?」
「うん。亮ちゃんにも会いたいんだろうけど、私のことを優先してくれた。」
「そうか。俺も久しぶりだから楽しみだ。」
大きく、息を吐くと話し出した。
「結論から言うと、雫との交際を認めてもらった。彼女との縁談はなかったことに出来た。」
私は、ほっとして少しめまいがした。
倒れかかって、亮ちゃんがびっくりして支えてくれた。
「雫。大丈夫か?顔色も相変わらずだし、食事してちゃんと寝てるのか?」
「その話は後で。続きを教えて。」
「後って。大事なことだろ。」
「いいから。で、原田さんは?取引はどうなった?」
「優樹菜は専務の秘書になることになった。一応、試用期間を設けている。お互いで合わないようなら解除。」
「どういうこと?突然どうしたの?」
「専務秘書が結婚退職予定なんだ。で、社長から提案があった。専務は次期社長候補だし、俺と天秤にかけたら専務のほうが将来安泰というわけだ。」
「何それ?そんな理由で納得したの?」
「父も原田社長に頭を下げてくれたし、優樹菜もこれ以上ごねてもいいことはないと思ったんだろう。肝心の俺の心が手に入らないのはわかっているだろうし、プライドを落ち着けるところを探すと専務秘書はうってつけだ。原田社長も納得してくれた。実は俺が別れた理由もそれとなく知っている。彼女の奔放さについて行けなくなったことが原因だ。雫を選んだと言うことが、俺の結婚に対する考えだと理解してくれたみたいだ。取引もそのままになった。」