再会した幼馴染みは犬ではなく狼でした
お母さんは、口元を手で覆って、良かったとつぶやくと嬉しそうに私を見た。
「雫。子供が出来たそうだな。彼には伝えたか?」
「はい。先ほど伝えました。びっくりしてましたが、喜んでくれました。そして結婚することを決めました。心配かけてごめんね。」
お姉ちゃんが立ち上がって両手を挙げて、ヤッターと叫んだ。
「こら、楓。夜中にうるさい。」お母さんが叱った。
「雫。亮君のことは信じていたが、今回は少々私も腹が立った。お前の状態は母さんから聞いていたが、交際を認めたことが良くなかったかと少し後悔していた。そこへ今回の話だ。順序が逆だというのは今時ではないのかもしれないが、可愛い娘の親としては正直複雑だ。亮君がキチンとしないようなら殴るところだ。」
「お父さんたら……」お母さんが、びっくりして見つめている。
「大丈夫、お父さんの代わりに私が亮ちゃんを蹴り飛ばす予定だったからさ。」
お姉ちゃんが得意げに話す。
「……楓までいい加減にしてちょうだい。」
お母さんは額を押さえてうめいた。
「本当に心配かけてごめんなさい。こんなつもりではふたりともなかったんですけど、運命だろうと亮ちゃんから言われました。」
お父さんは正面で頷いた。
「そうだな。子供は授かり物だ。天の采配だな。」
「でもさー、恐らく私の子供と雫の子供は同級生になるし、超楽しみ。お父さんとお母さんは一気にふたりの孫の世話だよー。」
「こら、楓。お前は、ほんとにいつになっても騒がしい。そんなんで、母親になれるのか。」
「大丈夫。雫もいるし、一緒に育てていけばなんとかなるでしょ。」
「なんとかなるでしょって。相変わらず……。どうしてこの子はいつになっても……。」お母さんがうなだれた。
「明日、会社を休んでお姉ちゃんの病院を紹介してもらう。診察してもらって夜にキチンと報告できるようにします。」
「そうしなさい。雫、身体を大切にな。忙しいようなら早めに産休取るとか……」
「任せて。私、総務だしそういうことは詳しいから。隣は人事で見ているし。」
「雫はしっかり者だから心配はしていないが、無理しやすいからな。母さんも見てやってくれ。」
お父さんは私を心配そうに見つめていた。
「お父さんたらー、私のことは全然心配してくれないんだー、どうして?」
「楓。お前は、休みすぎないでちゃんと隆君の世話もしなさい。」
「えー、どうして私だけ?世話してもらうんだよー、妊婦なんだから。」
「……とにかく、まあ、楓も身体を大切にしなさい。」
「ハーイ!」また、手を上げて立ち上がるお姉ちゃん。相変わらず明るくて面白い。慎重な私と正反対。
「さあさあ、ふたりとも早く休みなさい。」お母さんがそう言って、席を立った。