再会した幼馴染みは犬ではなく狼でした
幸せとはⅡ
今日も、営業フロアの一課に書類の間違いを説明するために下りると、一番遠くの三課の課長席から私を見つけた亮ちゃんが、こちらへ一目散に走ってきた。
「もう、大丈夫って言ってるでしょ。」
「だめ、大きな荷物は持たないように言っただろ。なんで持ってくるんだよ。」
「総務を出たときは荷物なかったんだけど、途中色々資料渡されて。」
カスミがこちらに来ると、亮ちゃんの方を見て呆れた顔をした。
「高野課長。かなり目立ってるって自覚あります?」
亮ちゃんは来た道を振り返り、営業フロアにいる全員がニヤニヤ笑いでこちらを見ているのに気づいた。
「高野君。過保護だね。妊婦は少しくらい動かないと出産大変なんだよ。」
営業一課長が亮ちゃんの肩を抱いて耳元で囁いた。
「だから大丈夫よ、課長。お席にお戻り下さい。」
亮ちゃんに向かってそう言うと、さりげなく私の左手の薬指に輝く指輪を撫でて戻っていく。
そう、昨日八月八日。
私の二十七歳の誕生日。彼がこの指輪を贈ってくれた。
そして、久しぶりに亮ちゃんのところに泊まり、朝一緒に出勤してきたのだ。
三ヶ月に入り、つわりとの付き合いも慣れたものになってきた。
私は食べつわりになった。空腹が吐き気につながる。
たくさん食べるわけではないのだが、胃が空だとムカムカしやすく、吐き気を抑えるにはグレープフルーツなど酸っぱいものを取ると落ち着く。
チーズなども食べたくなる。それをとりあえず口にいれておけば、吐き気を抑えられる。
ご飯の匂いはNG。社食は近づくのも辛い場所となった。
とにかく、亮ちゃんは過保護。
昨日も、私を座らせてあれこれ世話をする。
そして、自分の足の前に私を座らせると身体を撫でながらキスの雨を降らせる。
「あー、早く五ヶ月にはいらないかな?」
「……。」
「何だよ、急に黙って。」
「亮ちゃん。狼になろうとしているでしょ。絶対そうでしょ。犬の時の方が可愛かったよ。穏やかで。」
亮ちゃんは私の顔を自分の方に向ける。