最後の詰みが甘すぎる。
プロローグ


 月をも凍らす寒さに耐えた冬が終わり、桜が綻び鳥が歌う春になるといつも思い出す。

 パシンと鳴り響く軽やかな駒音。
 将棋盤の上を滑るように走る八種類の個性豊かな駒達。
 詰むや詰まざるやの真剣勝負に興じる羽織姿。
 呼吸すら忘れるほどの集中力とむせかえるほどの熱気にただただ魅せられる。

 ひとりでは決して描くことのできない軌跡は星をなぞる星座のようにキラキラと輝き、いつまでも色褪せることはなかった。

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