最後の詰みが甘すぎる。
瀬尾家から廉璽の家までは歩いて十分ほどだ。川沿いの土手を歩き、橋を越えてすぐの階段を上った三軒目。
築五十年以上の昭和の面影が色濃く残る日本家屋が廉璽の住まいだ。
タワマンだろうが低層のデザイナーズマンションだろうが好きに借りられるのに、廉璽は長らく祖父と暮らしたこの家から頑なに出ようとしない。
廉璽の祖父は五年ほど前に亡くなった。親しい肉親は祖父だけだった。
両親が離婚する際、共に親権を主張しなかったため、名付け親でもある父方の祖父の元にやってきたという。
子供心に複雑な生い立ちなんだなあと感じていた。
「ああ重かった……!!」
柚歩は廉璽の家の玄関の前で荷物をおろした。荷物が重すぎて廉璽の家に着くまでにうっすら汗をかいてしまった。
多分気づかないと思うけれど、礼儀としてインターフォンを鳴らしてみる。五分待ったが反応がないので合鍵でサクッと家の中に足を踏み入れる。
以前、将棋に熱中しすぎて家の中で行き倒れているのを発見して以来、廉璽の家の合鍵は瀬尾家で預かるようになっていた。
一階の一番日当たりの良い居間が廉璽の住処。対局以外はほぼこの場所にいると言っても過言ではない。
廉璽は万年床の上で枕を抱えて寝ていた。枕の先には棋譜がいくつも並んでいた。読んでいる最中に寝てしまったのか、それとも寝ている最中に何か思いついて引っ張り出したのか。