最後の詰みが甘すぎる。
柚歩は棋譜と将棋関連の本で足の踏み場もない居間を片付けながら、万年床まで歩みを進めた。
幸せそうに眠る廉璽の身体を揺り動かす。
「廉璽くん、起きて」
「柚……歩……?」
「また夜中まで研究してたの?」
「ん……」
「どうせ昨日から何も食べてないんでしょ?ご飯持ってきたよ。食べる前にシャワー浴びてきたら?」
「ああ……」
廉璽は柚歩の指示に素直に従い、風呂場に向かった。
その間に脱ぎ捨ててあるスーツとシャツをハンガーに掛け、布団を持ち上げベランダに干していく。
(まるで母親だな……)
片付ける暇が惜しいなら家政婦を雇えばいいのにと毎度のことながら思う。
寡黙でミステリアスだとかで女性からキャーキャー言われているけど、柚歩に言わせれば単に色々面倒臭がっているだけだ。
廉璽が関心があるのは将棋だけ。他のことは割とどうでもいいと思っている節がある。
契約している飲料水のコマーシャルなんて、棒読みもいいところ。あれで購買意欲がそそられる方もどうかしている。
「柚歩、腹減った……」
シャワーを浴び終えた廉璽が下半身をタオルで覆い隠しただけの無防備な姿で現れ、柚歩は片付け途中の本を落としそうになった。
「なんで裸で出てくるのよ!!」
思わずクルリと反転し廉璽から背を向ける。