最後の詰みが甘すぎる。
「替えの服がなかったから」
「なんでもいいから早く服を着てよ!!」
目を瞑りながらタンスを指さすと廉璽はタンスの中から適当なシャツとズボンを選びゴソゴソという衣擦れの音と共に身につけていった。
(一応、嫁入り前なんですけど!?)
家族でもない異性にあっさり裸を晒して、どういう了見だ?
初めて見た廉璽の裸が瞼の裏に焼き付いて離れない。痩せ型で肉は薄いが、存外肩は広く骨張った美しい身体だった。
(や、やだ……)
柚歩はドキドキと脈打つ心臓を落ち着けるために何度も深呼吸した。
柚歩の望み通り服を着た廉璽はというと、ダイニングチェアに腰掛け柚歩が持ってきた母お手製の惣菜に舌鼓を打っていた。
「これ上手いな。おばさんにお礼言っといて」
「あ、うん。わかった」
廉璽は相当腹を空かせていたのか次々と惣菜を平らげていく。
「あ、そうだ。棋王の防衛おめでとう」
「ん」
混ぜご飯のおにぎりを食べながらも目は棋譜を追っている。
柚歩には見慣れた光景だった。柚歩の父も同じようなことをしていて、しょっちゅう母に怒られていたからだ。
廉璽の頭の中は防衛の安堵よりも次の対局のことばかりだろう。廉璽は名人戦の初戦を十日後に控えていた。