最後の詰みが甘すぎる。
「残りのおにぎりとおかずは冷蔵庫にしまっておくからね?」
「ん」
(……どこまで聞いているんだか)
柚歩は気を取り直しダイニングテーブルの上に置かれた細々したものを整理し始めた。
不要な郵便物や溜まったレシートを半分ほど捨てたところで、ふとある物に気がつく。
バラを敷き詰めた背景にゴールドの文字で女性の名前が刻印された名刺だ。
会社勤めの人のものとは思えないほど派手でケバケバしい。
(もしかして、キャバクラとかラウンジの名刺かな?)
名刺に書かれている店名から推察したが、確認することもできないので予想でしかない。
捨てていいのか迷っていると、廉璽から名刺を取り上げられその場で握りつぶされた。
「捨てといて」
「え、あ?うん……」
握りつぶされた名刺が、柚歩の手のひらに落とされる。
正直驚いた。まさか廉璽が綺麗な女性が接客してくれるタイプのお店に本当に行くなんて……。
クシャクシャになった名刺をついじっと見つめてしまう。
冷蔵庫から水を取り出し飲んでいた廉璽が口を拭っていく。
「どうした?」
「廉璽くんがこういうところに行ったらさぞやモテるんだろうなって思っただけ……!!」
「スポンサーに無理矢理付き合わされただけ。二度と行かない。大して面白くもなかったし」
今をときめく津雲廉璽を連れて行ったら、さぞや注目の的になったことだろう。柚歩には女性相手に見栄を張りたいスポンサーの胸の内がありありと透けて見えた。