最後の詰みが甘すぎる。
瀬尾家のインターフォンが鳴ったのは、夜の十時過ぎのことだった。
こんな時間に尋ねてくるなんて普通のことではない。柚歩は警戒しながら玄関まで歩いて行った。
すりガラス越しに見えるシルエットに見覚えがあり、はあっとため息をつく。
もとより物盗りならインターフォンなんてそもそも鳴らさない。
「廉璽くん……だよね?」
「柚歩、開けてくれ」
廉璽がコンコンと控えめに扉を叩いてくる。扉を開け玄関に招き入れると、いいと言ってもいないのに勝手に靴を脱いでいく。
「前夜祭は?」
「さっき終わったところ」
「わざわざここまで来たの?」
「いつも来てるだろ?」
「や、そうだけど……」
記念すべき名人戦第一局は都内の某有名ホテルで開催される。確かに前夜祭終わりにここまでやってくることは可能ではある。
(だからって今日も来る?)
明日は名人戦の大事な初戦だ。
こういう日はじっくり身体と頭を休めておくものでは?
「柚歩……?」
二階から顔を覗かせる母に、心配するなと視線を送る。
「お母さん、やっぱり廉璽くんだった」
「あらまあ。じゃあ、私は先に寝るわね」
母は安心したようにそう言うと、寝室に戻って行った。
さて、問題は廉璽だ。
ここまでやってきて手ぶらで帰らせるのも忍びないので相手をしてやることにした。