最後の詰みが甘すぎる。
ゴールデンウィーク初日の朝。
休日をいいことに二度寝どころか三度寝を決め込み、十一時を過ぎた頃にようやく二階から降りていく。
「お母さん、お腹空いた〜。ご飯……」
「おはよう、柚ちゃん」
リビングに入るなり声を掛けられると、寝ぼけていた頭がはっきりしバッチリと目が覚めた。
「右近寺……会長!?」
「……柚歩、キチンと身支度してらっしゃい」
母のこめかみには深い怒り皺が刻まれていた。柚歩は慌てて階段を駆け上がると、自室に飛び込みパジャマから私服に着替えた。
(びっくりした……。まさか右近寺会長が来ているなんて)
右近寺十八世名人は将棋連盟の現会長であり、父の友人でもあった。
そして、廉璽や桂悟の二人目の師匠だ。
柚歩の父が亡くなった後、残された門下生達は同門の右近寺の弟子となった。
着替えを済ませた柚歩はすっかりしおらしくなってリビングに戻ってきた。
「先ほどは大変失礼しました……」
「いやいや。休日の朝に突然訪ねてきたこちらが悪いんだ。気にすることないよ、柚ちゃん」
右近寺は幼き頃から柚歩のことを親しみをこめて『柚ちゃん』と呼ぶ。父が存命だった時ははしょっちゅう遊びにやってきて将棋を指してくれた。