最後の詰みが甘すぎる。
「いつもなら名人戦が終わった後に来るんだが、今年は廉璽のせいで荒れそうだから先に仏壇に線香を上げにきたんだ」
「お墓の方には?」
「もう行ってきたよ」
「父も右近寺会長と久しぶりに会えて喜んでいると思います」
二人は良き友であり、ライバルでもあった。タイトル戦でもよく対局していた。
「ははは、どうだかな。それはそうと、昔みたいに右近のおじさんでいいんだよ。会長なんて私みたいな道楽者には重い肩書きさ」
寡黙な父とは違い、右近寺は生まれつきの根明だ。ランニングと釣りが趣味で、将棋がなければ父と友人になることもなかっただろう。
将棋は時として奇妙な縁を紡いでいく。
「廉璽はよくここに来ているのかい?」
「はい。なんだかんだ言って月に二、三回は……」
八大タイトルの他にも将棋には多くの大会がある。ヤグラの上の方まで勝ち進むと、月に数回は瀬尾家にやってくることになる。
「そうか。まだまだ廉璽も成長していないな」
予想通りの弟子の様子に右近寺は苦笑いした。