最後の詰みが甘すぎる。
その日は朝から空模様が怪しかった。関東地方は大荒れで朝から記録的な強風が吹き荒れていた。夜には雨も降り出し、台風さながらの大嵐になった。
「お母さん?あ、やっぱり飛行機飛びそうもないの?うん、わかった。もう一泊してくのね。やだ、私一人でも大丈夫だよ。いくつだと思ってるの?はいはい、じゃあね」
旅行に出掛けている母からの電話を受け、柚歩は雨戸を閉め玄関の戸を施錠した。
嵐の夜に一人きり。
これがホラー映画なら柚歩は今頃モンスターに襲われている最初の被害者に成り果てているだろう。
万が一でも停電したらまずいので早めに風呂に入り、懐中電灯を用意しておく。
テレビをつけてみたものの変わり映えのしないバラエティ番組に飽きた柚歩は早々に電源を切ってしまった。
「寝るか……」
なんとはなしに呟いたその時、インターフォンが鳴った。
(まさか、嘘でしょ!?)
施錠していた扉を開けると、そこには傘もささずにびしょびしょに濡れた廉璽が立っていた。
「廉璽くん!?傘は!?」
「途中で壊れた。柚歩、寒い……」
「こんな日まで家に来ることないでしょ!?」
柚歩は慌てて廉璽を家の中に招き入れると、風呂場に無理やり押し込んだ。
シャワーを浴びている間に脱衣所に忍び込み、廉璽が着ていたスーツを回収する。
代わりに桂悟が置いていったスウェットを一揃え置いておく。