最後の詰みが甘すぎる。
(うわ、凄い……)
柚歩は雨を吸って重たくなったスーツの水をできる限り絞ると、物干し竿のあるリビング脇のサンルームに形を整えて干してあげた。
「おばさんは?」
風呂上がりの廉璽はリビングにやってくるなり、母の所在を尋ねた。
「昨日から横浜の叔母さんと一緒に阿蘇に温泉浸かりに行ってる。こっちが大嵐だから飛行機が飛ばないみたい。もう一泊してくるって」
「へー…。それは大変だな」
母がいないということは、完全に二人きりだ。柚歩は急にソワソワと落ち着かなくなった。
(右近寺会長が変なことを言うから……!!)
「そ、それで……今日はどうしたの?」
「明日出発するからその前に柚歩と指そうと思って」
出発と聞いて柚歩は思わずカレンダーに目をやった。
名人戦第三局は広島で開催される予定だ。すっかり忘れていた。
「あとこれ。この間の敢闘賞」
「敢闘賞?」
廉璽のビジネスバッグから小さな箱が出てきて柚歩に渡される。訝しみながら箱を開けると、桜をモチーフにした可愛らしいネックレスが出てきた。